吾妻・安達太良花紀行8 佐藤 守

マルバキンレイカPatrinia  gibbosaオミナエシ科オミナエシ属)

  山地の岩場やがれ場に植生する多年草。秋の七草で有名なオミナエシの仲間であるが、開花期はオミナエシより早く、8月上中旬頃である。花は筒状の黄色い合弁花で先端が5枚に分かれる。雄しべは4本。花の基部には「距」と呼ばれる突起があるのが特徴。里山に植生するオミナエシ、オトコエシには「距」はない。キンレイカは漢字で「金鈴花」と書く。高山に植生するコキンレイカ(ハクサンオミナエシ)にも「距」があるが、こちらとは葉の形が異なる。コキンレイカの葉は深い裂刻がありモミジに似ているが、マルバキンレイカは深い裂刻はなく粗い鋸歯で縁取られた丸みをおびた広葉である。葉のつき方は対生である。

なおコキンレイカは飯豊連峰に植生するが、吾妻・安達太良・磐梯山では植生が確認されていない。また面白いことに新潟県以北に植生するとされているマルバキンレイカは、市販の図鑑類には殆ど記載されていない。私が知る限りでは、平凡社の図鑑のみである。吾妻連峰では、中腹辺りに群生地があるが、身近にこんな珍種が植生しているとは誰も気づいてはいないだろう。

ヤナギランEpilobium angustifolium アカバナ科アカバナ属)

  高原の湿り気のある草地に植生する多年草。「ヤナギ」の仲間でもなく「ラン」の仲間でもない。しかし花はランのように艶やかである。また葉の形もさることながら、果実が絹毛を持ち風にのって浮遊するところはヤナギに似ている。とても花が小さいアカバナの仲間とは思えないが、花びらの色は紛れも無くアカバナの様に涼しいピンクである。しかし赤い4枚のガクがこの花を華やかなイメージに仕立て上げている。

ヤナギランの凝り性はこれに留まらない。花の咲き方も3日掛りなのである。まず開花初日には8本ある雄しべのうち4本が花粉を出し、2日目に残りの雄しべが花粉を出す。しかし雌しべが柱頭を4裂して花粉を受け入れる態勢を整えるのは開花から3日目である。植物学者はこのヤナギランの開花習性を雄から雌へ性転換する植物と表した。この様な咲き方で花穂の下から上に向って咲き続ける。これはマルハナバチやガが確実に受粉をしてくれることを狙ったヤナギランの用意周到な種の繁殖戦略でもある。
 真夏の吾妻連峰中腹でこの花に初めて出会った私は、そんな用意周到な戦略があるとはつゆ知らず、ただただその美しさに感動していただけであるが、これもヤナギランの戦略が功を奏した証なのかは今のところ不明である。

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