吾妻・安達太良花紀行7 佐藤 守

アブラチャンParabenzoin praecox クスノキ科シロモジ属)

落葉潅木で山地のやや湿ったところの林縁に植生する。吾妻連峰ではクロモジ属のオオバクロモジが良く知られているが、シロモジ属のアブラチャンはあまり知られていない。本種は長野、静岡以西に植生するシロモジの仲間。雌雄異株で花芽は、クロモジと同様に頂芽の葉芽の両脇に提灯状に2個着生する。一つの花芽から3〜5個の花を咲かせる。花はクロモジよりも大きく、鮮明な黄色であり、クロモジと異なり葉芽が開く前に総状に咲くので遠くからでも良く目立つ。マンサクに次いで開花が早く、キブシ、バッコヤナギとともに、里山の本格的な春を告げる。開花期間は雌株より雄株の方が長い。これは、アブラチャンはハエ類を受粉の仲人とする虫媒花であるが、ハエ類はハナアブと比較して気まぐれで、特定の雄花を集中して訪れる確率が低いためにアブラチャンがとる繁殖戦略である。

響きが植物の名前らしくないが、漢字で書くと‘油瀝青’となる。「青」は中国語で「チャン」と発音することからアブラチャンとなったらしい。「瀝青」とは一般的には天然アスフャルト類を指す。その昔、灯りをとる油を樹皮や果実から搾油していたためにつけられたらしい。透きとおった黄色の小花をたわわにつけた姿を見ると、気のきいた可愛いい名前をつけてあげたいと思う。クロモジと同様、枝の切り口からは芳香が漂う。

ウスバサイシンAsiasarum sieboldii ウマノスズクサ科カンアオイ属

山間部のやや湿った樹林下に植生する夏緑性多年草。地下茎の先端から2枚の葉が偽対生状に伸びて、その葉の付け根の分岐部に1つづつ花をつける。先が3裂した暗紫色の壺状の花姿はがく(がく筒と呼ばれる)で花弁はない。がく筒には無数の縦溝と白い斑点が入る。がく筒中では6個の花柱(雌しべ)の周りを12個の雄しべが囲む幾何学的な配列を見せる。葉形は基部が深くえぐれ、尖った葉先の心臓形。カタクリやスミレサイシン、ミヤマエンレイソウ等が咲きそろった春の林床の落葉中に埋もれるように花を咲かせる。吾妻連峰に植生するウマノスズクサ科の植物は本種のみである。

「春の女神」ヒメギフチョウ幼虫の食草として有名で、食草に起因してヒメギフチョウから分化したとされるギフチョウとの生息堺はルードルフィアラインと呼ばれている。なおヒメギフチョウの県内での分布域は会津と県北地方のみであるが、大半の産地で絶滅している。これは里山自然林の伐採等によるウスバサイシン・カタクリ群落の消滅と無関係ではない。  

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