吾妻・安達太良花紀行6 佐藤 守

コマガタケスグリ(Ribes japonicum)ユキノシタ科スグリ属

今から5年前の1994年の7月10日に「守る会」事務局で西吾妻湿原の登山道調査に出かけた折、穂状の紅白の小花をたわわにつけた潅木に遭遇した。カエデに似た葉をつけていることから、一瞬、カエデの一種かと思ったが、直ぐに葉が互生であることに気がつき、帰宅後、図鑑で本種であることを確認した。スグリは、昔の農家の庭先でよく植えられていたもの。果樹農家であった私の家にもそれがあり、子供の頃、赤く色づいたその液果をよく食べていたことを思い出した。スグリは漢字で‘酸塊'と書かれるように、かなり酸っぱい味がする。それでもさして気にもせず口にほおばっていたのは、菓子など食べられない時代だったからなのか。
 そのスグリの仲間が高山(こうざん)に植生していることを知り、懐かしさを伴った感動に浸ったことを記憶している。あれから5年後の今年、谷地平で再会を果たした私は撮影にたっぷりと時間を費やしたのは言うまでも無い。帯赤色の花弁に見えるものは実はがく片で本当の花びらはその内側の白いもの。この花弁は非常に薄く、開花まもなく消失してしまう。果実は赤黒色で、全ての小花が結実することは無く、たいていはまばらに着く。標高1500mから1800mの渓流沿いに植生する。

ネコノメソウ(Chrysosplenium rayanum)ユキノシタ科ネコノメソウ属


チシマネコノメソウ


ツルネコノメソウ

山間部の湿地や渓流に植生する夏緑性多年草。雪解け間もない高山(たかやま)山麓の渓流沿いを訪れると、大半の樹木の芽がまだ固い中で、林床が黄色に輝く光景が見られる。その正体はネコノメソウの群落である。よく見ると金粉をまぶした小さい葉群の中心部に折り紙で作った四角い小箱に似たものがあり、その中に4個の雄しべが収まっているのを観察できる。

ネコノメソウの花は花弁が無く、開花時には、雄しべを包む淡黄色のがく片4個とその周りの包葉が黄金色に染まる性質がある。葯も黄色で、葉は対生である。ツルネコノメソウChrysosplenium flagelliferumもネコノメソウと植生域は同じであるが、開花期がネコノメソウより半月程早く、葉は互生で、雄しべは8個、葯の色は黄色である。名が示すようにつるを伸ばし、開花時には茎を立て先端が二分枝して花をつける。

チシマネコノメソウChrysosplenium kamtschaticunは日本海型植生で多雪地に多い。雄しべは8個で鮮赤色の葯が長方形に並び、これを囲むがく片は宝石をまぶしたように煌き、神秘的である。幕川登山口付近に植生するが、気づく人はいないようである。 

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