吾妻・安達太良花紀行4 佐藤 守

タニギキョウPeracarpa carnosa var.circaeoidesキキョウ科タニギキョウ属


亜高山帯の針葉樹林縁のやや湿った林床に植生する多年草。鬱蒼としたオオシラビソ林中の登山道ではうっかりすると見落としてしまうほど小さな植物である。しかし不思議なもので、花の少ないオオシラビソ林でこの花の群落に出会うと、そこに小さな光がともっている様である。登山者に安らぎを感じさせてくれる貴重な小花である。

葉は互生し、粗い鋸歯をもったスペードの形をしている。茎は細くて柔らかい。花は頂・腋性で、茎の先端や葉腋に1個づつ白い清楚な花を上向きに咲かせる。花冠の先は5裂するのが基本的な咲き方であるが、時に3、4裂しかしない花も見られる。そのような花は、裂片の幅が揃わず、キキョウのように花弁が癒着した合弁花であることが理解できる。高山頂上から麦平側に少し下ったオオシラビソ林下で針葉樹の根元の周辺に群落を形成している。開花期は6月下旬から7月初旬頃となる。

ミヤマスミレViola selkirkii スミレ科スミレ属)

吾妻・安達太良山域には、山麓も含めると約20種類ぐらいのスミレ類が植生する。その中でミヤマスミレの植生域は比較的高く、標高900mから1500mの森林周辺の登山道沿い等に自生する。葉はイワガラミの若葉を小さくしたような形で、先が鋭くとがり、葉縁は粗い鋸歯で縁取られる。花は赤〜赤紫色でこの山域で見られるスミレの中では最も赤色が濃く鮮やかであるが、直射日光に弱く、退色するとタチツボスミレと似た色になる。

スミレの花は兎の耳のような上弁2枚と中央の側弁2枚、舌のように垂れ下がる唇弁の5枚の花弁から構成されている。唇弁は「距」とよばれる花の後ろに突き出た器官を持ち、中に雄しべが収まっている。ミヤマスミレの距は赤紫色で太く、やや長めである。側弁内側には毛がない。

鬼面山から箕輪山中腹にかけて、見事な群落を形成している。この一帯での開花期は5月上旬からである。この時期は直射日光が強く、風もよく吹くので写真にその美しい姿をおさめるのは至難の技である。ある穏やかな五月晴れの日にミヤマスミレの撮影に出かけたところ、観察会でおなじみの村松御夫妻に会った。その日は何故か夫婦登山者が多く、ミヤマスミレの群落に囲まれて歩く姿がほほえましく感じられた。なお吾妻連峰での開花期は6月中旬頃となる。

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