吾妻・安達太良花紀行34 佐藤 守

オノエヤナギ(Salix sachalinensis ヤナギ科ヤナギ属)


雄花

雌花

山間部の湿地周辺や河川沿いに植生する落葉高木。別名をヤブヤナギ、ナガバヤナギ、カラフトヤナギ(学名はサハリン=樺太のヤナギの意)という。バッコヤナギ、シロヤナギと並んで吾妻・安達太良山域に植生する代表的な高木タイプのヤナギであり、この山域では最も植生頻度が高い。バッコヤナギ→オノエヤナギ→シロヤナギの順に植生地の湿性度が高いようである。
 バッコヤナギ同様、葉が展開する前に花が咲くタイプの代表種である。開花期はバッコヤナギより早いようである。花芽は互生である。短い花柄に2,3枚の小葉を着ける。この花柄の有無や小葉の形態がヤナギの種類を識別する手がかりとなる(バッコヤナギ、カワヤナギは無花柄である)。苞は細長い軟毛が密生する。また苞の対面に細長い密腺を1個着生する。雄花の小花は雄しべが2本あり花糸は離生し、葯の色は開花始の時期はやや赤みを帯びたオレンジ色であるが満開時には黄色となる。雌花の子房は緑色で細長く柄を持つ。柱頭は黄色で2つに分かれる。
 葉は互生で葉の形は細長く先端は長く尖り、葉縁には微細な鋸歯がある。表面は革質で光沢があり無毛、裏面はやや白味を帯びる。冬芽は一個の鱗片で包まれる。幹の色は始め緑色で次第に緑黄色を帯びた灰色となりやがて茶色が濃くなり裂け目が縦に走る。
 私がオノエヤナギの花を意識したのは、西烏川で満開の壮木に出会った時で、それまではバッコヤナギとミネヤナギしか認識できず、この頃よりようやくヤナギの個性を感じられるようになった。ヤナギの花が美しいと初めて思ったのは鬼面山で出会ったミネヤナギで、オノエヤナギの花はこのミネヤナギを大型にしたような印象であった。その後イヌコリヤナギの花に出会い、私にとってヤナギの花は明確に早春の観賞の対象となった。

ルリソウ(Omphalodes krameriムラサキ科 ルリソウ属)


ヤマルリソウ


ヤマルリソウ

山地の谷筋に生える多年草。花の色が瑠璃色であることから名づけられた。瑠璃色とは紫を帯びた深みのある青色を指す。

葉は互生、根生葉は長い葉柄があるが、茎葉は葉柄がない。葉形は先の尖った靴べら状で整う。鋸歯は無い。草姿全体が白い開出毛に被われるが、葉は少なく、葉の表面はやや照りがある。花は頂生花序で、茎の先端から花柄が伸長し、下部3分の1の付近で2分しY字形を呈する。分枝した花柄が巻散花序を形成する。小花は合弁花で花冠先端は5裂し、その基部が花の中央部に突き出て白い副花冠を形成している。雄しべと雌しべは花筒内部に納まっており、副花冠は花の中心へ昆虫を誘うためのものらしい。果実は透明感のある緑白色で形は中央部が窪んだボタン状である。縁にはかぎ状の突起物がある。1小花で分果4果が正方形に着生する。
 今から数年前に奥羽山脈のとある山でルリソウの仲間に遭遇した。その花の美しさは格別で早速、図鑑でその名前を調べた。ルリソウとヤマルリソウのいずれかであることまでは絞り込めたが、開花期の形態では判断がつかず曖昧なままでいた。それは一方の種類しか見ていないためであった。2019年に高尾山でヤマルリソウを確認することができ、その花はルリソウであることが判明した。ヤマルリソウ(Omphalodes japonica)は果実の縁にかぎ状の突起物がないことでルリソウと区別される。草姿もロゼット状で花茎は匍匐し、花もルリソウと比べて明らかに小さく質素で、花の寿命も短い。ルリソウの葉は厚みがあり開出毛の密度も濃く感触はビロードの様である。ヤマルリソウは福島県が北限とされるが、県内の山地ではまだ見たことがない。ルリソウは北海道まで植生する。最近、北陸特産種のエチゴルリソウもヤマルリソウとされた。ヤマルリソウは形態的に環境変異が大きいのかもしれない。初見翌年には吾妻・安達太良山麓でもルリソウの群落に出会った。


 
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