吾妻・安達太良花紀行33 佐藤 守

ゴヨウイチゴ(Rubus ikenoensis バラ科キイチゴ属)

亜高山の針葉樹林の林床に植生する落葉小低木。葉は互生で、細く硬い毛に被われた長い葉柄の先端に5枚の小葉から成る複葉を水平に開く。これは、木漏れ日を効率的に受け止めるためである。葉全体は均整の取れた五角形。小葉はひし形に近い端正な形で葉縁はリズミカルな鋸歯を持つ重鋸歯である。中央の小葉(頂小葉)が最大でその主脈を中心に折り込むと残りの左右の4枚の葉が重なる対称形である。葉脈は窪み、鋸歯の先端部まで走る。葉柄の基部には1対の托葉がある。茎はつる性で地を這う匍匐性で2年生になると木質化する。

花は当年枝の先端に1個つく(条件がよければ複数つくこともある)。細い花柄の先に筒状の緑白の花を下向きに咲かせる。といっても花弁はなく、開花は大型のがく片が割れるだけである。がくの数は5個で基部は卵のようにふくらみ先端は2、3裂して鋭くとがる。がくの外側は針状の棘が密生する。筒状部基部は鮮赤色に着色し、がく上の棘針も開花後しばらくは鮮やかな赤色を呈する。がくの内側は多数の雄しべと雌しべが詰まっている。がくは開花後、先端を閉じるが果実の成熟にしたがって再び平開する。果実は赤い液状の核果の集合果である。近縁種のヒメゴヨウイチゴは茎やがくに針状の棘がなく、花弁が7枚あることで区別できる。

ゴヨウイチゴは吾妻連峰のオオシラビソ林の林床でよく見る植物であるが、他の木苺類と異なり、花びらが無いことから、私は長い間、開花しても地味な花という印象を持っていた。今年の夏、高山を散策した折、若いゴヨウイチゴの株に出会った。その株は明るい緑色の葉群の中に赤い物体を点々とちりばめていた。葉はゴヨウイチゴなのにおかしいと思い、眼鏡をはずして、その赤い物体に近づいて観察して初めてそれが花とわかり、その赤い棘の美しさに感動してしばし見入ってしまった。日当たりのいいところでは花柄や葉柄も赤く色づくことも発見であった。

アズマレイジンソウ(Aconitum pterocauleキンポウゲ科トリカブト属)

 

山地に生える多年草。木漏れ日の差し込む林床では群落を形成する。名前の漢字表記は「麗人草」ではなく「伶人草」である。雅楽を演奏する人を伶人といい、伶人がかぶる冠に花の形が似ていることが名の由来という。

葉は互生、開花時まで根生葉があり、根生葉から中位部までの葉は長い葉柄がある。葉は単葉で5〜7深裂し、葉縁は粗い鋸歯がある。上位葉は著しく小さい。

花は茎の先端に花柄を分枝し総状花序を形成する。小花はやや赤みを帯びた紫でトリカブトに似ているが、トリカブトより明らかに小さく質素で奥ゆかしい印象である。花弁のように見えるのは5枚のがくである。花弁はガクの内側に雄しべのような形状で収まっており、先端から蜜を分泌する。外側のがくはスミレの距のような筒状の上部と球状の2枚の側弁、舌状の下部の2枚で構成されている。雄しべは多数あり、雌しべは3個ある。茎やかぶと状のがく、花柄に曲がった毛(屈毛)を密生する。母種のレイジンソウとはこの屈毛の有無で区別する。オクトリカブトと混生するが開花期はオクトリカブトより遅い。オクトリカブト同様、猛毒を有する。

吾妻・安達太良山域に植生するトリカブト類はオクトリカブトと本種の2種のみであるが、自生地はアズマレイジンソウの方が局地的である。本種は、私が花の宝庫として毎年通い続けていた場所で山内氏によって発見された。オクトリカブトが咲き終わり、秋の花はもう終わりだろうとの思い込みが私の見つけ損ねの原因である。地元では、その毒性の強さから事故をおそれ、昔より駆除されてきたという。アズマレイジンソウの自生地が少ないのは、それも一因となっているのかもしれない。


 
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