吾妻・安達太良花紀行32 佐藤 守

シラネセンキュウ(Angelica polymorpha セリ科シシウド属


オオバセンキュウ

山麓の林縁や渓流沿いなど、日陰の湿り気のある林内に植生する多年草。植生域の標高は低く、里山の花である。

葉は互生で3〜4回3出羽状複葉。小葉には深い切れ込みがあり、さらに不ぞろいの鋸歯を持つ重鋸歯である。枝分かれを3〜4回繰り返して、先端は3出葉状(1枚の葉が3つの小葉に分かれた複葉)の小葉をつける。上部の葉は葉柄が発達し、ふくらんで茎を包む。茎は中空で表皮は緑色または紫黒色を帯び、各節で内側に折れる。

花は複散形花序で大散形花序は15-30個の小散形花序からなり、1つの小散形花序は40-50個の白い小花からなる。小花は5数性で5花弁と5本の雄しべで構成される。花弁は内側に湾曲する。この性質はミヤマセンキュウ、オオバセンキュウ、シラネニンジンにも共通である。果実は翼状に2稜を備えるのが特徴である。開花期は9月から10月でセリ科の花ではオオバセンキュウと並んで最も遅い。

吾妻・高山に植生するセンキュウ類にはミヤマセンキュウ、シラネセンキュウ、オオバセンキュウがあり、一見していずれも似ているため識別に苦労する。ミヤマセンキュウは開花期が早く7月から8月である。しかしシラネセンキュウ、オオバセンキュウは開花期も同時期で茎が屈曲する特性も同じである。オオバセンキュウはシラネセンキュウより植生する標高が明らかに高く、小葉の鋸歯は規則的な単鋸歯である。なお、ミヤマセンキュウはオオバセンキュウと植生域がほぼ重なる。

秋も深まった頃、ケヤキ林でこの花に遭遇した。限りなく本種に近いと思ったが、吾妻連峰の植生に関する手持ちの資料には記載がなく自信が持てなかった。翌年に果実を採取して持ち帰り図鑑で確認し、別の山域で葉の形態が違うオオバセンキュウを見つけてようやく間違いないことを確信した。

ダキバヒメアザミ(Cirsium amplexifolium キク科アザミ

 

山地に生える多年草。木漏れ日の差し込む林床では草丈50cmに満たない個体が点在する程度であるが湿地周辺では草丈が1mを超える大型の個体が群落を形成する。

日本に植生するアザミ類のほとんどは日本固有種であり、スミレ類同様、日本人に古くから親しまれてきた。アザミの仲間は種類が多く、変異も多いので分類が困難な植物である。開花時の根生葉の有無、葉の切れ込みの深さ、葉の基部が茎を抱くか、花(頭花)は上向きか下向き(これを点頭と言う)〜横向きか、総苞(花序全体を包む葉の変形したもの)が反り返るか否か、総苞片の列(周方向)の数、総苞は粘るかどうか等が識別の基準となる。

ダキバヒメアザミは、開花時は根生葉が無く、葉の先は尖り、縁は鋸歯がある。葉が羽状に切れ込む株もある。中部以下の葉の基部が茎を抱くのが最大の特徴で、これが種名(抱茎葉を有するの意)となっている。花は淡い紅紫色の多数の筒状花で構成され、上向きに咲く。花冠の先端は5裂し、不規則に折り重なり柔らかな毛毬状の花の塊を形成する。その塊の中から合着した5つの雄しべに包まれた雌しべが突き出て繊細なシルエットを強調している。総苞片は粘らない。茎は無毛で、個体により紅紫色を帯びる。形態的にはナンブアザミに酷似するがナンブアザミは花が下向きに咲き、葉は茎を抱かないので区別できる。 

2000年の晩秋に高山の南山麓を散策した際に、草丈の小さなアザミに遭遇し、写真に収めた。葉はナンブアザミに似ていたが、花の着き方が異なり不明のままであった。最近、茎を抱いた本種に出合いようやくその名前が判明した。アザミ類は山菜としても昔から重宝されており、ナンブアザミ、サワアザミと並んで本種も代表的な山菜アザミであるが、ナンブアザミと比較して、吾妻・高山での植生域は限られているように思われる。なお、アザミの語源は一説には、その美しい花を手折ろうとして葉の棘に触れ、あざむ(驚きあわてる)ことに由来すると言う。


 
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