吾妻・安達太良花紀行31 佐藤 守

ウリノキAlangium platanifolium var.trilobum ウリノキ科ウリノキ属)

落葉広葉樹林の渓谷沿いに植生する落葉低木。日本ではウリノキ属の植物は2種のみである。

葉は互生し、葉身は浅く3裂するのが基本型。葉脈は3主脈タイプである。裂片は全縁で、先端が尾状に尖る。葉の質は薄く、裏面は白く、軟毛が密生する。花は腋性で葉腋から集散花序をだし、白い小花が23個、互生して吊り下がる。

花弁は68枚、同様に雄しべも68本である。雌しべは雄しべに囲まれており、少し長く突き出る。蕾の時は細長い円柱形で開く直前まで、白い花弁が雄しべと雌しべを包んでいるが、開花すると花弁が、外側に巻き上がり、黄色で細長い葯が現れる。開花したての頃は葯がしっかりと雌しべの胴体を隠しているが、次第に離散して雌しべの花柱が顕となる。果実は子房下位で楕円形の核果である。藍色に熟す。名前の由来は葉の形がウリに似ていることから。

1996年の早稲沢の観察会の時が、運よくウリノキの開花中であった。その余りにもシンボリックな花の形が印象的で名前も単純なため、すぐに私の記憶に刷り込まれた。しかし、その後ウリノキには何度か遭遇しているが、花の時期にはめぐり逢えずにいた。10年以上を経た2007年に、高山に登った。その帰りに蕾を沢山つけたウリノキを見つけた。開花まで1週間ぐらいと推測し、翌週、再度訪れたところ、開花期を迎えていた。トラマルハナバチが盛んに花に纏わりついていた。帰る途中でマルハナバチが飛び回るのは、何かいい香りでもするからかと気になり、戻って確かめてみたが、徒労であった。後日、改めて早稲沢で撮影した写真を見たら、やはりマルハナバチと思われる昆虫を葯に携えている花が写っていた。マルハナバチにとって花が少ないこの時期の格好の餌場となっているのかもしれない。

 

オタカラコウLigularia fischeri キク科メタカラコウ

湿地に生える多年草で群落を形成する。草丈が12mに達する大型の野草である。亜高山の湿気の多い草原から低山の沢沿いまで植生上の垂直分布は広い。

葉は地際から発生する根生葉と花をつける茎に着生する茎葉とがある。前者は、長い葉柄があり、葉身は直径3040cmに及ぶ大型のハート型で数個着生する。茎葉は3個で根生葉と比べるとかなり小さい。葉脈はいずれもへこむ。

花は総状花序で茎の先端に分岐せず穂状に下から咲く。小花は頭花と呼ばれ、周辺の59枚の舌状花と中央の20個前後の筒状花で構成される。舌状花は雌花で筒状花は両性花である。近縁種のメタカラコウとは舌状花の数で識別できる。メタカラコウの舌状花は13個で、筒状花も67個と少ない。

タカラコウ(宝香)とは防虫剤や香料にされる熱帯雨林の竜脳木から採れる竜脳香のことで、根や茎の香が竜脳香に似ていることに由来し、草の姿から雄(オタカラコウ)と雌(メタカラコウ)に分けて命名された。

古い図鑑等では、福島県が北限と記載されているが、私は1995年に飯豊山の亮平の池近くでオタカラコウの大群落を撮影しているので、かなり以前から分布域は北進していると思われる。高山山麓でオタカラコウの群落に遭遇したのは1998年のこと。飯豊山の植生地は明るく広大な草原であったのに対し、高山では標高も周辺環境も全く異なり、ケヤキ等の中高木に囲まれた光条件に恵まれない湿地で群落が形成されていた。

福島県のオタカラコウは明治時代に磐梯山で、当時の植物学者によって採取され、シズオタカラコウと命名されたことが福島県植物誌に記載されており、福島県とは所縁の深い植物のようである。

 


 
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