吾妻・安達太良花紀行3 佐藤 守

アオノツガザクラ(Phyllodoce aleutica ツツジ科ツガザクラ属)


ツガザクラ

 「アオノ・ツガ・ザクラ」とは不思議な語感を持つ。その語感は残雪と湿原が点在する清涼な高山をイメージさせる。初夏の雪田や高層湿原周辺のお花畑を代表する常緑の樹木の仲間。葉は互生で、革質のコメツガに似た細い葉が密生し、茎を覆い隠す。花は頂性で、枝の先端から花柄が4〜7本伸びて垂れ下がりその先に壺型の花を1個づつ咲かせる。花の先端は5枚に分かれ反転する。雄しべは10個。花柄と萼は腺毛が密生し、色は花柄、花ともに緑色を帯びたクリーム色が基本。

吾妻連峰では西大巓から東大巓辺りに植生するが、磐梯山、安達太良山には分布しない。吾妻での花期は6月下旬頃となる。アオノツガザクラはツガザクラやエゾノツガザクラとの種間交雑ができやすい。写真はツガザクラとの雑種と思われるもの。花柄が赤紫色で、花にも薄赤紫色がクリーム色の地に絞り状に入っている。また花形は典型的なアオノツガザクラより、丸みを帯びてボリューム感がある。

なおツガザクラ(Phyllodoce nipponica)は岩木山を除けば日本海側は月山、太平洋側では吾妻連峰(西吾妻から谷地平にかけて植生する。)が北限となっている。

クロウスゴ(Vaccinium ovalifolium ツツジ科スノキ属)


クロウスゴの標準タイプ


マルバウスゴ

  黒い小果実をつけ、オオバスノキ、クロマメノキと並んで和製ブルーベリーとも言える高山性の潅木。クロマメノキは知っていてもクロウスゴを知る人は少ないのではないだろうか。鎌沼ではクロマメノキと混じって群落を形成している。開花期は5月末から6月にかけてでオオバスノキ、クロマメノキよりも1ヶ月ほど早い。花は逆さまにした鉄瓶を連想させる形のベルフラワーで花全体が赤紫に着色する。また花柄(枝と花の間の茎状部)の花側の膨れた部分が青みを帯びた緑色になる。一年枝は鮮やかな赤色なので、クロマメノキ等との区別は容易にできる。

 私は、観察会の準備のため鎌沼を下見に訪れた。時期は観察会予定日より2週間も早いため、沼の周辺は残雪が散見され、開花中の花はほとんど見られなかった。そんな中で、初めて出会ったクロウスゴの姿は青緑の花柄と花弁のコントラストが美しく印象的であった。花の色合いが何となく好きで、それから数年後に改めてクロウスゴの花を見に出かけたところ、廻りのクロウスゴより一段と鮮やかな赤い色をした株があった。よく見ると前年に伸びた新梢も緋色で株全体が燃えているようであった。恐らくこの時期ではこのクロウスゴとガンコウランの花が派手好きの双璧だと思う。通常、クロウスゴの花は色の薄い部分がストライプ状に入るので、この個体は変異種と見られる。

東北の山域に植生する仲間にはクロウスゴ(Vaccinium ovalifolium)の他にマルバウスゴ(Vaccinium ovalifolium var.shikokianum)がある。前者は花の形が縦長で花色は緑白色〜薄紫色。後者は葉の先端が丸く、花色は緑白である(マルバウスゴは飯豊連峰の御西付近に多く植生する)。

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