吾妻・安達太良花紀行29 佐藤 守

オオバクロモジ(Lindera umbellata var.membranaceaクスノキ科クロモジ属)

 

山地に植生する落葉低木のクロモジの寒冷地型で、東北、北海道の多雪地帯に分布する。雌雄異株。クリ、コナラ林からコメツガ林まで植生範囲は広いが、ブナ-オオバクロモジ群集と呼ばれる森林区分があるようにブナ林の重要な標徴種である。標徴種というのは、ブナの森を構成する植物の代表種であることを意味する。

葉は互生し、形は細長い楕円形で先はとがる。クロモジよりも大型で葉身長が長い。展葉初期の若葉の時期は毛があるが、間もなく脱落し、成葉化するにつれて葉の表面は光沢を帯びてくる。葉脈は主脈と側脈が明瞭である。クロモジは基部が3行脈状である。花は腋性で5,6枚の葉の基部に10輪前後の小花を叢状につける(散形花序)。ガクはなく花弁にあたる花皮片は6枚で花色は黄白色。雄花では9個の雄しべを備え、雌しべは退化している。雌花は退化した9個の仮雄しべを持つ。開花期は雄株の方が早い。また雄株の方が花芽を多く着生しやすい。これらの仕組みはいずれも確実に後継世代を確保するための繁殖戦略である。開花と葉の展葉は同時期で萌芽期のオオバクロモジの株は花と葉が一体となって太陽光を抱え込み、枝の先端に灯りを燈したようなシンボリックな姿を呈する。

森の観察を始めた頃、早春の森で、最初に萌芽期の樹木の姿が美しいと思ったのがオオバクロモジで私は、毎年この花を備えたオオバクロモジの株を見るのを楽しみにしている。オオバクロモジは香木でもあり、葉を揉むとやさしい香りが漂う。枝も折ると同様に芳香を放つ。

タチガシワ(Cynanchum magnificumガガイモ科カモメヅル属

落葉広葉樹林のやや湿った林床に植生する多年草。吾妻・安達太良連峰では極めて稀な植物と思われ、私は吾妻山麓の1箇所でしか植生を確認していないが、安達太良山麓にも植生しているようである。いずれにしてもタチガシワの分布特性は太平洋型なのでこれらの山域が本県の北西限ではないかと思われる。

初めて見たときは、茎頂部に群れているものが花の一種であると気がつくまでしばらくかかった。花の色合いと言い、その姿・形と言い、極めつけの個性派である。草丈は3050cm程度で、茎の先端に対生した大きな葉が4枚開き、その中央部から叢状に緑がかった紫色の小花を多数上向きに咲かせる。その姿はシンプルで奇抜。一度見たらまず忘れることはないだろう。

花の姿は花びららしきものが5枚あるだけで雄しべらしきものも雌しべらしきものも見当たらない。中央部に5区分された幾何学模様のボタンのような粒がついているだけである。このボタンのようなものを良く見ると開きかけた花のような姿をしており、ボタンの外側の5つの花弁のようなものは副花冠と呼ばれる器官でその内側に黄白色の5つの扁平な粒が緑色の柱にくっついているようにも見える。これは雄しべと雌しべが合着したもので「ずい柱」と呼ばれるもの。このような花の構造はガガイモ科特有のものである。開花期は春の花が一通り咲き終えた初夏の頃である。

なお種小名のmagnificumは壮麗を意味しているが、初夏の光を反射した姿はきらきらしていて不思議ときらびやかである。


 
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