吾妻・安達太良花紀行26 佐藤 守

ケヤキ(Zelkova serrataニレ科ケヤキ属)

北海道を除くクリ−コナラ林の丘陵や日当たりのよい沢筋に生える落葉高木。木目が美しいところから「異(け)やけき木」と呼ばれ、これが転じて「けやき」になったという。葉は互生し、先端は鋭く尖る。葉縁は波型の単鋸歯で縁取られ、葉脈は刃先まで通る。

花は雌雄異花、雌雄同株である。新葉とともに雄花、雌花、まれに両性花を着生する。吾妻・安達太良山麓での開花期は4月下旬でカスミザクラと同時期である。雄花と雌花の位置関係は雌花が先に着く。これはツノハシバミ、クマシデ等の高木と同様である。雄花は新梢の基部に数個着生し、4〜6裂した茶褐色の花被と4〜6個の雄しべから成る。雌花は展葉した葉の葉腋に1個着生し、雄しべを欠き花被と雌しべから成る。雌しべの柱頭は2つに別れ、乳白色の突起物が密生する。雄花と雌花の間に正常な雌しべと退化した雄しべを有する両性花を着生する場合がある。

幹肌は若木では灰白色で滑らかであるが、樹齢を重ねるに従い表面がうろこ状にはがれ、個性的で味わいのある樹皮模様を呈する。樹姿は枝がほうき状に分岐して広がり、伸びやかで美しく、生命力の強さを感じさせる。そのためか古くから神社や屋敷周りに植栽され、人の暮らしと結びつきの深い樹木である。また木質が緻密で硬く多面的な用材として昔から自然植生のケヤキが伐採され利用されてきたため、現在ではケヤキの自然林は壊滅状態にある。高山山麓でもコロニー的にケヤキの大木が見られるのみである。一方で萌芽更新の繰り返しにより個性的な姿のケヤキも見られる。

クリンソウ(Primula japonicaサクラソウ科サクラソウ属)

カスミザクラ-コナラ林などの落葉広葉樹林の湿り気のある林床に自生する多年草。葉は根生葉のみで先端から中央部までは長楕円形で基部に向かって細くなり、葉柄は不明瞭である。サクラソウ独特のちりめん状のしわがある。高さ60-70cmの花柄を伸ばし小花を数段輪生する。花としては全体で1つの花である(輪生花序)。クリンソウの名はこの花の姿に由来する。小花は合弁花で花弁は無く、花弁に見えるのは花冠と呼ばれる器官である。花冠の先端は5裂し、各片の中央部はハート状に窪む。開花すると5弁花状に平開する。小花の色は濃いピンク色である。吾妻・安達太良山麓での開花期はヤマツツジが咲く頃の5月中旬である。

春になると園芸店の店先に必ず並ぶ代表的な花にプリムラ・ポリアンサ(Primula polyanthaやプリムラ・マラコイデス(Primula malacoidesがある。これらはサクラソウの西洋種である。学名が示すようにクリンソウはサクラソウ類の日本の代表種である。日本原産種は外国種と比較して小型で色合いも質素であるのが通常であるが、本種は西洋種よりも大型で花色も鮮やかで華やかである。クリンソウの仲間であるハクサンコザクラやユキワリソウは高山植生であり、本種のみが人里近くに自生する。そのため、山野草愛好家等の採取が激しく、上記のケヤキ同様にクリンソウの自生地は壊滅状態にある。

 絶滅危惧種のランで「郷おこし」を図っている地域がある。その遊歩道沿いで整備のために伐採された切り枝の間に数株のクリンソウを見つけた。貴重な自生地であるが、目玉植物のランと比較して「植生保護」上の対応の落差に一抹の不安を感じた。なお属名のPrimula(プリムラ)は、「primos(最初)」が語源で、花がいち早く咲くことを意味する。


 
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