吾妻・安達太良花紀行25 佐藤 守

クマシデCarpinus japonicaカバノキ科クマシデ属

 
雄花


雌花 


果穂(果実) 

北海道を除くクリ−コナラ林の丘陵や日当たりのよい沢筋に生える落葉高木。コナラ同様、萌芽力が強い。葉は互生し、長さ611cmの披針状長楕円形で先は尖り縁に鋸歯がある。葉身基部は、通常、窪まない。葉脈は2024対。一年生枝は細く無毛。チョコレート色地に皮目が多数散らばる。芽ごとにジグザグに曲がる姿は成長のリズムを感じさせる。

花は雌雄異花、雌雄同株である。穂状花序で葉の展開する前に花を咲かせる。開花期は同じ仲間のアカシデよりやや遅い。雄花序と雌花序の位置関係は雌花序が先に着く「かかあ天下」型である。雄花序は腋性で枝に垂れ下がる。小花は苞の下に1花ずつ着生する。がくや花びらに当たる花皮片は無く、810個の雄しべだけである。雌花序は頂腋性で、雌花序を持つ冬芽は発芽すると葉と枝が現れ、その先に雌花序が着く(このような冬芽を混合花芽という)。小花は苞の下に2花ずつ着生する。花皮片は無く、雌しべだけを着ける。雌しべの柱頭は2つに分かれる。雌しべの基部に小苞があり、果実になるとこれが成長して葉状となる。

冬芽は紡錘形、芽鱗が4列に並び、断面は四角形になる。雌花序を持つ冬芽の方が小さい。

和名は熊四手で、四手は紙垂で、垂れ下がった果穂の様子をしめ縄や玉串に下げる紙を折った紙垂に見立てたもの。他のシデ類よりも果穂(果実)が大きいので熊の名を冠したとされる。

クマシデの萌芽期から開花期の樹姿は、芽生えが光を乱反射し、透明感のある黄緑色に輝き、息を呑む美しさである。アカシデの赤とイタヤカエデの黄色と共に早春の森を三色に彩どる。

ヒナスミレ(Viola tokubuchiana var. takedanaスミレ科スミレ属)

カスミザクラ-コナラ林などの落葉広葉樹林の林床に自生する地上茎のないスミレ。大型のサクラスミレとの対比からスミレのプリンセスと喩えられる。和名の雛スミレは草姿が繊細で花が美しくかわいらしいところからつけられたという。ミヤマスミレの近縁種で山地に分布するが、植生域はミヤマスミレより低い。深山の半日陰の谷側の傾斜地に多い。葉はマキノスミレ、花の形はミヤマスミレ、色合いはエイザンスミレに似ている。

葉は葉身基部が心臓形に窪み、ハートに二等辺三角形を重ねたような形をしている。縁には波状の鋸歯がある。葉色は表側が暗緑色、裏側は赤紫を帯びる。葉の両面に粗毛が生えている。マキノスミレより葉は大型であり、マキノスミレは葉が立つのに対し、ヒナスミレは葉柄が曲がり水平に開く。

花は小ぶりでスミレとほぼ同程度の大きさ。上弁が広く、側弁内側は有毛である(ミヤマスミレは上弁が細く側弁は無毛)。花柄の途中に細い2枚の苞葉がある。花色はピンクを基調として株や場所により白色との濃淡のあるグラデーションで色調を構成する。エイザンスミレと比較して花が小さく色調は明るい。濃厚なピンク色のアケボノスミレと好対照で派手さは無いが、爽やかな美しさがある。

私が歩いた範囲では、吾妻・安達太良連峰でのヒナスミレの植生地は限定的で、最も生育地の少ないスミレ類のひとつである。これは、半日陰を好んで植生するため、花をつける株が少なく、群落が発達しにくいためかもしれない。開花に至らない葉だけの株も多い上、開花期が早いこともあり、ヒナスミレの花を見るチャンスは極めて少ない。ヒナスミレの花に出会うと、ちょっとした幸福感に満たされるのは、年甲斐も無く、可憐なヒナスミレの姿に魅せられたせいだけではないのかもしれない。


 
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