吾妻・安達太良花紀行24 佐藤 守

リンドウGentiana scabra var. buergeriリンドウ科リンドウ属

リンドウ


リンドウ


エゾリンドウ

山麓の草地に植生する多年草。花は合弁花であるが先は5花弁に別れ、その間に小さな副片がある。雄しべは5本。葉は対生で上下90度に回転して葉が着くので上から見ると4枚の葉が十字形を描く。葉柄はなく葉縁はざらつく。吾妻・安達太良連峰に植生するリンドウ属は花が大型のエゾリンドウ(G .triflora var. japonica)、エゾオヤマリンドウ(G .trifl. var. jap. subvar. montana)、リンドウと花が小型のフデリンドウ(G . zollingeri)、ミヤマリンドウ(G . nipponica)に分かれる。

リンドウの開花期はリンドウの仲間ではもっとも遅く、ほとんどの山の花が咲き終わった晩秋である。他のリンドウ類が青紫を基調とする色合いであるのに対し、本種の花は赤紫から青紫までのグラデーション色で飾られている。特に開花直前の蕾の姿は優美。毛筆に似た端正な形と色合いが調和して深みのある美しさを漂わせている。

吾妻・安達太良連峰では自生地が少ないようで、私が始めてこの花に出会ったのは5種類の内でもっとも遅い。晩秋のよく晴れた穏やかなある日、高山のブナの紅葉を観察しに出かけた。乾いた林道斜面の陽だまりに咲いた満開のリンドウの花に今年最後の稼ぎ時とばかりにヒラタアブが盛んに吸密活動をしていた。リンドウは花の底に蜜腺を備えつけているのでヒラタアブはこれを吸っているらしい。この吸密活動のおかげでリンドウは受粉を完了する。

なお、那須連峰と飯豊連峰に植生するオヤマリンドウ(G . makinoi)が、これらの山塊の間にある吾妻・安達太良連峰と磐梯山には分布しないのは不思議である。どうもこちらは尾瀬、会津駒ヶ岳を経て飯豊にいたる県境山塊に分布するようである。

ミヤマキケマン(Corydaris pallida var.tenuis ケシ科キケマン属)


ナガミノツルキケマン

山麓の草地に自生する越年草(冬緑1年草)。種子で繁殖する。種子は晩秋に発芽し冬を越し翌年の5月頃に花柄を伸ばし総状花序にエンゴサクに似た鮮黄色の花を咲かせる。結実し種子の散布が終わると夏を待たずに枯死してしまう。同属のエゾエンゴサクやヤマエンゴサクと異なり塊茎は形成しない。

私が初めて吾妻連峰でミヤマキケマンを確認したのは峠を下った中吾妻山麓の林道沿いだった。その当時は、鮮やかな黄色い花の色と特異な姿がとても新鮮に感じた。その後、南会津を訪れた際に、国道沿いに発達したミヤマキケマンの群落をかなりの頻度で確認し、驚いた記憶がある。吾妻連峰では植生区分が明確で今のところ福島市側の東吾妻山域では見たことがない。

ムラサキケマンも含め、ミヤマキケマンの仲間は「アリ散布植物」の代表種として知られている。キケマン類の種子には種枕(別名エライオソーム、カルングル)と呼ばれる付属物が着いている。エライオソームはオレイン酸などの脂肪酸、グルタミン酸などのアミノ酸、ショ糖などの糖を含んだ物質で、アリは種子ごと巣に運び、エライオソームだけを餌として利用し、種子は巣の周辺に捨ててしまう。その結果としてキケマン類は種子を広い範囲に散布することを実現する。カタクリ、ミヤマママコナ、アオイスミレ、ニリンソウ、ヤマブキソウ、フクジュソウ、ツリフネソウなども「アリ散布植物」である。

属名はヒバリに由来するらしいが、花の形からの連想だろうか。ミヤマキケマンとは対照的に秋咲きのナガミノツルキケマン(C.ochotensis var raddeana)が矢大臣山等の浜通りの里山に多く分布する。


 
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