吾妻・安達太良花紀行22 佐藤 守

コクサギOrixa japonicaカン科コクサギ属)

コクサギ-ケヤキ群集として植生区分される落葉広葉樹林の標徴種。沢沿いのやや湿った林内に植生する。樹高はクロモジより少し高い程度の低木類に属し、雌雄異株である。11種で形態的にも生理的にも極めて個性的な特性を持つ。

葉のつき方(葉序)に特徴があり、葉は2枚ずつ交互に互生するように見える。これはコクサギ型葉序と呼ばれ、他にサルスベリが知られている程度で非常に珍しい葉序である。コクサギ型葉序は4列互生とも言われ、十字対生の対を構成する葉が少し上下にずれてできたものと考えられている。葉の表面はつやがあり、裏面は全体に毛があり、全面にミカン科の葉に特徴的な透明な腺点(明点)がある。これは精油成分(芳香性の揮発成分)を分泌する精油細胞が集まったもので油点と呼ばれる。他にはオトギリソウの仲間にも見られるが、こちらは透明ではなく黒いので黒点と呼ばれる。雄花は総状花序で長さ3〜5cmの穂となる。花弁、雄しべ、柱頭、子房(心皮)、がくなどの花の形態は果実にいたるまで全て4で構成されている。小花は黄緑色で径1cm弱。果実は4つに分かれ、4つの種子が集まって実ができ、熟すと弾けて種子が飛び出す。開花期は、福島市郊外では4月中下旬で野生のサクラ類よりも早い。花の着き方は腋性で、小花自体は目立たないが枝の周りに叢状に咲き、早春の光を透かして見るとつやのある若葉とともに樹全体がきらきらと美しく輝く。高山や安達太良山麓のやや湿ったケヤキ林内で見られるが株数は少ない。
 樹液はキノリン系アルカロイド類を含み有毒である。アルカロイド類は窒素を構成成分としているので肥料木にもなる。名の由来は、独特の匂いを持ち、「クサギ」の木より小木であることから「小臭木」。属名は命名者であるスエーデンの学者が「コクサギ」をヲリサギと聞き間違えたもの。

サクラスミレ(Viola hirtipes スミレ科スミレ属)

  カスミザクラ-コナラ林などの落葉広葉樹林の林床に自生する地上茎のないスミレ。地上茎のないスミレ類はスミレサイシン類、ウスバスミレ類、ミヤマスミレ類の3群に分けられており、ミヤマスミレ類はさらにスミレ類とミヤマスミレ類の2群に区分される。サクラスミレはスミレのグループに属するが、ミヤマスミレとは対照的に吾妻-安達太良山域では、あまり見られることの少ないスミレといっていいだろう。

スミレ(Viola mandshurica)の仲間とはいえ、花の大きさはスミレの2倍ぐらい大きく、野生スミレ類では最も大型の花を持つ。花弁の先端が窪んでいてサクラの花に似ていることが名の由来とされているが、窪みのない株の方が多いとされる。花は大型で側弁基部に毛が密生する。距は先端まで太く毛は目立たない。葉は葉身が58cmの長身の整った二等辺三角形で、基部は心臓形に切れ込む。葉は開花時には直立する。葉柄は長く、粗生する白毛が目立つ等の形態的特性がサクラスミレを識別する手がかりとなる。花の色はスミレに比べて紫が薄く、白っぽい赤紫色が多い。開花期は5月上旬で、スミレ類では遅い方である。形態的に似ているアカネスミレ(Viola phalacrocarpa)は、人里の農耕地沿いから山地の草原まで分布域が比較的広い。開花期がサクラスミレより早く、距は先端が細くなり毛が目立ち、花の色も紫が濃いことで区別できる。

高山周辺にはまず植生しないだろうと思っていたが、2004年春に土湯近郊の林道沿いで遭遇した。サクラから連想される華やかさはなく、花の姿はゆったりとしていて、むしろ奥ゆかしさを感じた。


 
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