吾妻・安達太良花紀行20 佐藤 守

レンゲショウマAnemonopsis  macrophyllaキンポウゲ科レンゲショウマ属

コナラ林からブナ林にいたる落葉広葉樹林の湿り気のある林床に自生する多年草。木洩れ日が射し込む林縁に近い傾斜地に群落を形成している。日本固有種で1属1種である。シーボルトにより発見命名されたもので、葉がサラシナショウマに似ており、花の姿が「蓮の花」を連想させることから名付けられた。属名のopsisは「〜に似ている」でエセアネモネの意となる。アネモネはイチリンソウ属のこと。種名は「大きい葉」の意味。

葉序は互生で根から直接発生した根生葉が1個着く。根生葉や茎の下部の葉は2〜4回三出複葉であるが、茎の上部では単純となる。小葉はひし形の卵形〜楕円形で先は鋭く尖り、葉の縁は不ぞろいで荒い鋸歯がある。葉の表面は光沢があり、サラシナショウマの葉とはこの光沢で識別できる。

花は茎の上部に交互に花柄を伸ばし下向きに咲く。基本的に複総状花序であるが、花は先端から開花する。長楕円形の花弁に見えるものは「ガク片」で、半透明の淡い赤紫を帯びたガク片がやや重なりあいながら開いた姿は丹頂鶴の優雅な舞を連想させ、奥深い美しさがある。花弁はその内側の円筒状に重なったもので先端部が紫色に染まる。ガク片と花弁は10枚前後ある。花弁の内側は多数の雄しべに囲まれて雌しべの花柱が中央部から突き出ている。雌しべは2〜4個ある。

「レッドデータブックふくしま」では絶滅危惧種U類に指定されており、2003年には高山山麓近郊でも群落が確認されている。かつては、福島県が北限とされていたが、現在は岩手県まで北上している。その岩手県の観光地で山採りとみられるレンゲショウマが店先に無造作に陳列されていた。見る人を幸福感で満たす花と言われるだけに「貴重種」にならないよう群生地は大切に保存したい。

ツノハシバミCorylus  sieboldiana カバノキ科ハシバミ属


雌花

  コナラ林からブナ林上部にいたる落葉広葉樹林の林縁に植生する落葉低木。叢状に主幹が発生し高さ2〜3mが普通であるが、幹径10cm前後の中木も見られる。「ハシバミ」とは展葉前の葉にしわが多いので、葉皺(ハジワミ)から転じた。本種は果実の形からツノを冠して名づけられた。ちなみに属名のCorylusは兜で果実からの連想と思われる。

葉序は互生で葉縁には細かい重鋸歯がある。若葉の時期には葉の中央部に紫色の斑ができる。この紫斑は成葉化するに従い消失する。新緑の頃は、この紫斑が識別の目安になる。

花は雌雄異花で純粋花芽であり、枝上の位置では雌花が雄花より先端につく。ハシバミは逆に、雌花が雄花の下につく。この関係はオオバヤシャブシとヤシャブシとの関係に似ている。雌花は頂芽の他に側芽が雌花となる場合がある。しかし雄花は頂芽には着生しない。雄花は裸芽で前年の秋にはカバノキ科特有の懸垂花序を形成する。包ごとに一個の雄花が咲き、葯は1つの雄花で8個着生する。

雌花は頭状で1つの冬芽に数個分化するが、開花は芽鱗から鮮赤色の花柱を覗かせるのみである。この花柱の色はきわめて美しく、風媒花であるにも拘わらずなぜこのように色彩が鮮やかなのか不思議である。紫外線の強い季節に咲くことからそれへの防御反応なのかもしれない。高山山麓での開花時期は3月下旬〜4月上旬で展葉する前に咲く。ヤマナラシに続いて開花し、ハンノキの仲間ではもっとも早いと見られる。

果実は刺毛を密生した総包と呼ばれる角状の組織に包まれており数個が根株状に着く。ヘイゼルナッツと同じ堅果の仲間で食べられる。しかし素手で触ると刺毛が手ごわいので注意が必要である。ヒメネズミやリスの好物である。


 
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