吾妻・安達太良花紀行2 佐藤 守

ワタスゲEriophorum vaginatumカヤツリグサ科ワタスゲ属

  高層湿原と言えば初夏の頃、真綿のようなワタスゲがそこかしこに揺らめく風景を思い描く人は少なくないだろう。しかしこれはワタスゲの果実であり、花が咲くのは早春の頃である。湿原を代表する植物であるだけに、是非その花を写真に収めたいものだと思い、浄土平や鳥子平に残雪が消える頃に通ったものの目的は果たせないでいた。

現代表の高橋氏から幕川温泉からの高山登山コースが、前橋営林局の森林生態系保護地域関連事業で整備されたのでその実態を見ておいた方が良いとの提案があり、その調査のため麦平まで踏査した時が偶然ワタスゲの開花期と一致したため、念願の花を撮影できることとなった。麦平のワタスゲ群落地は幕川コース湿原入口のごく一部の地帯であり、吾妻山系では標高的に仙水沼に次いで植生の下限ではないかと見られる。

シロバナエンレイソウ(Trillium tschonoskii) ユリ科エンレイソウ属

 

  別名をミヤマエンレイソウと言う。大きな3枚の葉の上に3枚の茶色がかった紫の小さな花びらをつけた個性的な姿が登山者に深山に入った実感を抱かせる。花びらに見えるのは実はガクで花びらは退化したものである。シロバナエンレイソウはこの花びらが退化しないタイプ。私との出会いは1997年4月26日である。土湯温泉周辺で群落を形成している。また安達太良連峰には花びらの赤いタイプが植生する。花の構造は3の倍数で構成され、典型的なユリ科の特徴を備える。外花被、内花被各3枚、おしべ6個、めしべの柱頭は3裂する。また葉や内花被の形まで3角形である。逆光では緑の外花被が白い内花被から透けて見える。また花期の終わり頃になると薄いピンクが混じることがある。染色体数は4倍体なので、どのような自然交雑の過程を経ているのか興味深い植物でもある。

吾妻での植生域はエンレイソウより低く、分布域はケヤキ林と重なるようである。

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