吾妻・安達太良花紀行19 佐藤 守

トリガタハンショウヅル(Clematis  tosaensisキンポウゲ科センニンソウ属)

山地や丘陵地の林縁に生える落葉蔓性低木。「ハンショウヅル」とは、火事を知らせるために鳴らした小形の釣鐘(これを半鐘という)に花の姿を見立てたもの。本種は高知県の鳥形山1460m)で発見されたため、地名を冠して名づけられた。なお半鐘は、昭和40年代頃までは各集落に必ずあった雨ざらしの火の見やぐらのてっぺんに着けられていた。当時は、この半鐘を鳴らしてみたくて登って大人たちに怒られた腕白がどこにでもいたはずである。

葉は3枚の小葉からなる三出複葉で葉序(葉の着きかた)は対生で茎の同じ場所から、2枚対で葉が発生する。花は腋性で葉腋から2〜3個の釣鐘状の花を下向きに咲かせる。花弁は無く、花弁の様に見えるものは「ガク片」で、外側には毛が生えている。花は多数の雌しべを有毛の雄しべが囲み,更に黄白色〜淡緑色の4枚のガク片が雨風を避けるマントのように包み込む構造となっている。属名が示すように園芸種で人気の高い「クレマチス」の仲間である。ハンショウヅルの仲間ではミヤマハンショウヅルのみが例外的に花弁をもつ。

「レッドデータブックふくしま」に絶滅危惧種U類として掲載されている「アズマハンショウヅル」はハンショウヅルの変種で中部地方から東北に植生するとされていたものである。しかし、花柄に小包がない等トリガタハンショウヅルと実質的な形態の差異は無く(図鑑記載では花柄の長さのみ)、近年では「アズマハンショウヅル」もトリガタハンショウヅルとして統一する見方が有力となっているようである。「高山の原生林を守る会」の中吾妻観察会(2000年)で本種に遭遇し、会員の間でも話題になったが、最近、高山山麓近郊でも会員の山内幹夫氏によって群落植生が確認されている。

センジュガンピ(Lychnis  gracillimaナデシコ科センノウ属)

ブナ林の渓谷沿いや亜高山帯のやや湿り気のある草地に生える。名前の由来は、日光中禅寺湖西岸の千手ガ原で発見され、花が中国原産のナデシコ科のガンピ(岩菲)に似ていることによる。なお、和紙の原料にされるガンピは雁皮でこちらは日本に自生するジンチョウゲ科の落葉低木である。

葉は対生し、葉柄は無く、葉身が茎に直接着く。葉の縁は滑らかだが波を打ち、細長く先がとがる。花は頂腋性で、各節から3個セットで花が着いているように見える。花弁の先が細かく裂けている花の姿はナデシコに似ているが、5枚の花弁の基部にはそれぞれ細長い2個の鱗片があり、その中に雄しべと雌しべがおさまる構造はフシグロセンノウと同じである。カワラナデシコなどのナデシコ属の花には鱗片は見られない。雄しべは10個あり、雌しべの花柱は5個で5の倍数で構成されている。

初めて飯豊山に登ったときに、私は三国小屋付近に咲く白い清楚な姿が最も印象に残り、飯豊山の花で最初にその名前を記憶したのがこの花である。その後、本格的に登山を始め、いろんな山に登ったが、なぜかセンジュガンピにはお目にかかれないでいた。それが、「高山の原生林を守る会」の第18回観察会(1996年)で薄暗い枝沢の斜面に1株だけ花を開いたセンジュガンピを見つけ、初恋の花に10数年ぶりに再会し懐かしい思いをひそかに抱いた記憶がある。今のところ吾妻連峰ではこの山域以外に植生確認の報告は無いようである。なお、飯豊連峰の地蔵岳山頂付近ではミヤマクルマバナやクルマユリなどと一緒に群落を形成しており、一面に雪が舞ったような涼しげな雰囲気をかもし出している。


 
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