吾妻・安達太良花紀行18 佐藤 守

ミヤマキスミレ(Viola brevistipulata var.acuminata スミレ科スミレ属

亜高山の渓流沿いや草地、砂礫地に植生する亜高山性のスミレ。日本海側の山地帯から亜高山帯の湿った林縁や沢沿いに植生するオオバキスミレViola brevistipulataの高山型。ミヤマキスミレとオオバキスミレの相違点は3枚の茎葉の付き方でミヤマキスミレはほぼ輪生するのに対しオオバキスミレは1番下の葉が離れてつくこととされている。実際は中間型もあり区別は困難な場合もあるようである。標記の写真は、2003年の植生回復ボランテアのための準備山行の際に、県境尾根で当初はオオバキスミレと思って撮影した群落である。改めて写真を確認すると3枚の葉の着生部がほぼ同一である個体が映し出されていたことからミヤマキスミレではないかと思い至った次第である。

黄色のスミレは、安達太良連峰には植生せず、吾妻連峰でも本種も含めたオオバキスミレとキバナノコマノツメの2種のみであり、吾妻連峰の中腹まで登らないと出会うことができない。高山(たかやま)等に植生するウスバスミレと併せて吾妻連峰の代表的な亜高山性スミレと言っていいだろう。

私が、初めてオオバキスミレと出会ったのは、飯豊山である。残雪深い斜面の陽光面からのぞいた黄色と緑のコントラストが鮮やかなこの花を見初めた時の感動は今でも忘れることはなく、スミレ類の中でも特別の想いがある。私の中ではオオバキスミレと雪は一体のもので、知人から新潟県では山麓の水田で大群落が見られると聞いたときは飯豊山との標高差から一瞬、意外な気持ちを留めたが、やはりオオバキスミレは雪国を象徴するスミレだったかとすぐに納得し、その事実を受け入れることができた。

タチカメバソウTrigonotis guilielmii ムラサキ科キュウリグサ属

山地の湿った谷間や渓流沿いに生える多年草。茎は直立し、葉は卵形で互生し、下部の葉柄は長く、上部のものは短い。葉脈は主脈の部分がへこみ、その模様が亀の甲の形に似ていることから名づけられたと言う。茎の先端に2個の花序を分岐して着ける。花序は渦巻状で巻散花序と呼ばれる。小花は合弁花で花冠は白色で5裂し、花筒上部に黄色っぽい付属体(鱗片)がある。その内側に雄しべ5個が花冠にくっついている。

花を探索していると、ひとつの新しい種との出会いが次々とその仲間の発見に連鎖することがある。私にとって、このムラサキ科の花がその典型と言えよう。2000年に麻耶山でミズタビラコ(Trigonotis brebipes)の花を初めて見た。花は小さいが、美しい紫色を帯び、花のつき方がモウセンゴケに似ているのでとても印象的であった。なおタビラコはキュウリの別称である。翌年、自宅前の空地で逸出したと思われるワスレナグサを見て、麻耶山で見た花と似ていると思った。その年に吾妻山麓の渓流沿いでこのタチカメバソウの群落に出くわした。さらにその翌年には、奥羽山系でルリソウ(Omphalodes krameri)やオオルリソウ(Cynoglossum zeylanicum)に出会うこととなった。3ヵ年でムラサキ科の4属(ルリソウ属、オオルリソウ属、ワスレナグサ属、ミズタビラコ属)の花に接することができたことになる。

タチカメバソウは北海道から本州に植生しており、分布域は広いようであるが、福島県ではそんなに植生地は多くないようである。吾妻連峰では西吾妻山系の一箇所でしか、私は植生を確認していない。裏磐梯の渓流沿いでも群落を形成していることから直射日光の当たらない清流を好むようでそれが分布を制限しているのかもしれない。
 タチカメバソウの花はシラッパケタ状態に写りやすく、他の白い花と比べても格段に撮影しにくい。何か他種とは構造的に異なる表面構造をしているのかも知れない。


 
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