吾妻・安達太良花紀行16 佐藤 守

タチシオデ(Smilax nipponica ユリ科シオデ属)


タチシオデ雄花

タチシオデ


シオデ雌花(花被片が反転)


シオデ

山麓の林中に植生する多年草。群生はしない。花は単性で雌雄異株。茎は草質でとげはない。葉は互生し、葉の形は鋸歯が無く、平行脈を備えた卵楕円形で基部は切形で左右一直線になる。裏面は白粉を帯び,光沢は無い。発芽後暫くは、茎が直立して生育し、折ると白い樹液が滲み出る。ある程度の草丈になると上部の葉の葉柄基部にある托葉がつる状になり他の植物にもたれかかるようになる。

属名となっているシオデ(Smilax riparia var ussuriensis)は、北海道,東北では昔から山菜として珍重されている。若い茎の食味がアスパラガスと同じであるという。最近では山採りした種をまいて栽培し、特産作物として販売している地域もあるようである。タチシオデの分布域は、シオデより狭く、北海道には植生しない。
 
シオデ属の植物はユリ科の中では個性派ぞろいで、つる性木本のサルトリイバラもこの仲間である。外観からはとてもユリのイメージは浮かんでこないが、いずれも花は3の倍数で構成されてユリ科の特徴を備えている。近年、この仲間をサルトリイバラ科として独立させる考えも提唱されている。タチシオデは、散形花序で球状に小花を咲かせる。花自体は小さいが、繊細で侮れない美しさをたたえている。特に雄花は、黄緑色の6枚の花被片と6本の白い雄しべだけで成立つ単純な小花がシンボリックに配置されて咲く様が可憐で雅を感じさせる。雌花は小花柄が短く、柱頭は黄白色で三裂する.果実は花序を反映して、先がとがった黒い小果が球状に密着した集合果となる。私は,山菜としてのタチシオデは味わったことは無いが、花の方は高山や箕輪山等の登山道沿いで1度ならずその姿を堪能させてもらっている。

タチシオデとシオデの相違点としては、シオデの方は発芽するとすぐにつる性となる、葉の裏は黄緑色で光沢がある、開花時期が異なる(タチシオデは5月〜6月,シオデは7月〜8月)、タチシオデの花被片は反転しない、タチシオデの雄しべの葯は長楕円形なのに対しシオデは線形である、シオデの小果は先がとがらず丸いなどがある。

ヤシャブシ(Alnus  firma カバノキ科ハンノキ属)


ヤシャブシ


ヤシャブシ雌花


ヒメヤシャブシ


ヒメヤシャブシは分枝性が強い

山地の尾根上や崩壊地等に植生する落葉高木。高さは10mを超える。花は単性花でブナと同様、雌雄異花であるが、葉は含まない純粋花芽。ブナと同じように雌花が雄花の上方に位置する。枝上の位置では雄花が先端に着き、雌花は雄花より基のほうに着く。雌花は柱頭の色を反映して全体が赤く、雄花は大ぶりで濃い黄色であるためハンノキの仲間でもよく目立つ。属名のalnusのそもそもの意味は色の「黄」を示すと言われるので、このヤシャブシの雄花が咲く様から連想したのかもしれない。ヤシャブシは太平洋型分布で吾妻連峰が北限。九州まで自生が確認されている。葉や葉柄に毛が多いタイプをミヤマヤシャブシと言う(福島県が北限)。ヤシャブシの開花期は残雪がまだ残る4月中下旬で、吾妻連峰の樹木の中でもかなり早い方である。

これと対照的なのがヒメヤシャブシで北海道〜四国に植生する。本州では多雪地に多い日本海型分布であり、吾妻連峰では大倉川流域の崩壊地での植生が特に目立つ。分枝性の強い落葉低木で雌花は淡緑色で下垂して咲き,雌花の数は3〜6個でヤシャブシ(普通は2個)より多い。雌花の花序を反映して果実もヤシャブシは上を向き,ヒメヤシャブシは垂れ下がっている。葉はクマシデに酷似する。

海岸近くに多いオオバヤシャブシは福島県浜通り南部以南の本州と伊豆諸島に分布するが、吾妻・安達太良連峰には自然植生していない。オオバヤシャブシは雌花の方が雄花より枝の先端に着くのでヤシャブシやヒメヤシャブシとは容易に区別できる。

ヤシャブシ類は、根に放線菌の一種フランキア菌(Frankia spp.)と共生する根粒状の組織を持っており、空中窒素の固定能力があるので、やせ地でも非常によく育つ。そのため治山植栽や肥料木などに用いられてきた。最近では山野の道路沿いの路肩に植栽されていることが多い。

なおヤシャブシの樹皮は若木では滑らかであるが、老木になると樹皮に割れ目ができ剥離する。そのため樹齢により幹のイメージが全く異なる。


 
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