吾妻・安達太良花紀行15 佐藤 守

ミヤマカラマツ(Thalictrum tuberiferum キンポウゲ科カラマツソウ属)


カラマツソウ


モミジカラマツ

山地の樹林内や沢沿いに植生する多年草。吾妻・安達太良連峰の山麓や中腹で群落を形成している。新緑の季節が過ぎ樹林内が薄暗くなった頃に、独特の形状をした小葉からなる3出複葉群で構成された葉群から伸びた茎の先端に一見カラマツの葉に似た花を散房状に咲かせる。開花前は花を包むがくが確認できるが、開花後まもなく落ちてしまうため開花中の花ではがくは見られない。このがくの性質は早落性と呼ばれる。またミヤマカラマツの花には花びらは無く、開花後の花は多数の雄しべと数本の雌しべで構成される。ミヤマカラマツの花は雄しべの形が特徴的で先端が紡錘形に膨らんだ花糸は横から見るとご飯をすくう杓文字の形にも似て、その先についた葯はまるでご飯粒のようでもある。雄しべの色は通常は白が基本であるが、赤紫から桃色に近い色彩を帯びる個体も見られる。このような個体は白いミヤマカラマツとはまるで別種のような艶やかさをかもしだしている。
 ミヤマカラマツの仲間にカラマツソウ(
Thalictrum aquilegifolium var.intermedium)があり、こちらは湿った草原を好む。吾妻連峰では西大巓の水場付近の草地で群落を形成している。カラマツソウとミヤマカラマツは一見すると見分けがつかないがカラマツソウの雄しべの形は細身のバット状ですっきりしている。またカラマツソウの茎は中空で、葉柄基部には托葉があるが、ミヤマカラマツの茎は中空ではなく、托葉もない。
 この他に吾妻連峰にはモミジカラマツ(
Trautvetteria caroliniensis var.japonica)が植生しているが、こちらはミヤマカラマツとは属を異にし、これ1種でモミジカラマツ属を構成している1属1種の植物である。葉は単葉で形がモミジに似ている。西吾妻小屋から西大巓の尾根上では樹林内と草地でモミジカラマツとカラマツソウの棲み分けが観察できる。

ズミ(Malus toringo バラ科リンゴ属)

山地の明るい所や湿地帯に植生する雌雄同株の落葉小高木で高さは5〜8mになる。葉は長楕円形が基本であるが三裂する葉が混じることがある。枝には刺があり、老木になると樹皮に縦に割れ目ができる。花は短枝の頂芽から5〜7個の花が散形状にまとまって咲く。これを花叢と呼ぶ。1個の花はがく、花びらともに5枚で秋には赤い小さな果実を着ける。黄色に熟すものはキミズミと呼ばれる。ズミの花は展葉が完了する前に咲くため開花の頃の樹姿は樹全体が白雪をまとったようで遠くからも良く目立つ。そのため、昔から庭木や盆栽用として山採りされてきた歴史を持つようである。樹皮を煮出して染料にしたり、絵の具の原材料にもなるので、「染み」からズミの名が変化したと言う説もある。また以前は、セイヨウリンゴ栽培の台木として利用されたこともある。コリンゴ、コナシ、ヒメカイドウ、ミツバカイドウ等別名が多いことから、人との長い接触があったことをうかがわせる。

吾妻連峰では仁田沼周辺や、裏磐梯から西吾妻にかけての山裾の水田のあぜ道などに比較的大木化したズミの古木が散在している。また高層湿原である標高1500mの谷地平でも群落を形成しているが、その樹姿は潅木状でとても山麓に植生するものと同一の樹種とは思えない。
 実はズミには福島県のリンゴ栽培に関わるエピソードがある。日本から外国にリンゴを輸出する際には、完全防除を義務付けられている特定の病害虫がある。この防疫規制の対象害虫の1種にリンゴコシンクイがある。この昆虫はもともとは日本に生息せず台湾から移入したものであるが、昭和20年代に福島県県北地方において、原野のズミ等でリンゴコシンクイの生息が確認され、当時の福島県から国に詳細な報告が成された文書が残っている。実はこれが過去の唯一の生息確認事例となっている。そのためリンゴの輸出入が自由化されたことに伴い、2002年より国の植物防疫機関では、生息の再確認調査を開始した。当時の報告書には飯坂や保原町など現在は果樹園や住宅地になっている地域が記載されており、当時のズミの植生域は平地の原野から標高1500mの高層湿原まで相当広かったことが分かる。なお現在は、このリンゴコシンクイは福島県での生息確認報告が途絶えており、原野開拓によるズミの伐採と果樹園での防除によりすでに見られない昆虫となっている。


 
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