吾妻・安達太良花紀行14 佐藤 守

エゾノチャルメルソウ(Mitella  integripetara ユキノシタ科チャルメルソウ属)

 

 深山の沢沿いに植生する多年草。ズダヤクシュ、ダイモンジソウ、クロクモソウなどユキノシタ科の植物の花は個性的なものが多いが、このチャルメルソウの仲間も不思議な形の花を咲かせる。葉の形は同じユキノシタ科のズダヤクシュに似て鋸歯があり3〜5の裂片に浅く分かれる。葉の両面にはまばらに毛が生える。開花期になると根生葉の間から数本の花茎を伸ばし、互生する2枚の葉に続いて10数個の小花を穂状に咲かせる。花はがく片、花弁、雄ずいともに5枚である。花弁は紫褐色の線形で先端が後ろに反り返る。花茎には短い腺毛が密生する。
 2001年の初夏の頃に、私は西吾妻方面の植生調査に出かけた。その日は天気も良く、タチカメバソウ等多くの美しい花に出会い、用意したフィルムもあっという間に無くなり2枚を残して山道を戻った。小さな沢を通り過ぎた時、これまで見たことの無い花のようなものをつけた植物の姿が私の視界をかすめた。後戻りして確認したら正に初対面の植物であった。残念ながら木陰で薄暗く撮影条件は悪かった。祈るような気持ちで株の全体像と花のアップを写した。幸いなことにアップの花の写真のうち1つの小花だけがピントが合い鮮明に映し出されていたため本種と推定することができた。翌年からは別の山域の植生調査の用事が入り、確認できないでいたが、それも一段落し、2003年に再訪し、間違いなくエゾノチャルメルソウであることを確認した。私にとってはクロクモソウ以来の印象に残る出会いとなった。そして吾妻連峰のユキノシタ科の植物としては東吾妻山域ではクロクモソウ、西吾妻山域ではこのエゾノチャルメルソウが山麓の象徴的な花ではないかと思っている。
 福島県に植生するチャルメルソウの仲間はこのエゾノチャルメルソウとコチャルメルソウの2種と思われる。なお「福島県植物誌」に記載があるのはコチャルメルソウだけである。コチャルメルソウは笠ヶ森や額取山等の奥羽山脈の山に植生する。チャルメルソウの名前は果実の形がその昔、屋台ラーメンやさんが吹いたチャルメラに似ていることに由来するという。また属名のスペルはギリシャ語に由来し、果実の形を僧侶がかぶった帽子に見立てたものと言う。

コンロンソウ(Cardamine leucantha アブラナ科タネツケバナ属)

山地の沢沿いや明るい湿った林床に植生する多年草。アブラナ科の花の特徴はがく片と花弁が4枚で雄ずいが6個、そのうち4個の雄ずいが長く2個が短いことである。そして花弁は開くと十字形に咲くので十字型花冠と呼ばれている。
 属名由来のタネツケバナは、その昔は水田に多く植生し、農家の人達はこの花が咲く頃を、稲の種もみを芽だし(催芽という)するために温湯につける作業を始める目安としたことから名づけられたと言う。しかし、いまではタネツケバナは水田には少なくなり、思わぬところで見られることがある。私は谷地平の大倉深沢でこの植物に似た花を見たことがある。タネツケバナの仲間は環境適応性が広いのか飯豊連峰の大日岳にはミヤマタネツケバナが植生するし、先日、植林をした旧鳩峰牧場では、マザーブナの脇を流れる沢沿いでコンロンソウと並んでオオバタネツケバナの群落が白い花を咲かせていた。
 さて、このコンロンソウであるが、特徴は葉の形態にある。5枚か7枚の奇数羽状複葉で両面に毛がある。また小葉には不規則な鋸歯がある。葉は互生である。花は総状に着生し花色は濃い白で光を良く反射するため、快晴の時は眩いほどである。環境が整えば見事な群落を形成する。私は、高山山麓の湿地帯でこの花を初めて見たが、大群落であったため一面が白く輝く様が今でも強烈な印象となっている。コンロンは漢字で崑崙と書き崑崙山脈が名前の由来と言う。花が咲く様を雪をまとった崑崙山脈になぞらえたものとされている。


 
花紀行目次へ