吾妻・安達太良花紀行13 佐藤 守

ヒトリシズカ(Chloranthus  japonicus センリョウ科センリョウ属)

 
ヒトリシズカ

深山の少し湿った木陰にに植生する多年草。開花期の上品で清楚な草姿には、静御前の舞う姿に喩えて名づけられたという話にも納得させられる。別名を静御前が舞った場所にちなんで吉野静(ヨシノシズカ)、白い花穂を刷毛に見立てて眉刷毛草(マユハケソウ)という。

雪が解けて、まだ土が十分に水分を含んでいる頃に一斉に茎を伸ばし、4枚の葉の間から純白の花を咲かせる。単体の草姿は清楚だが株状にまとまって群落を形成するので、花の最盛期には迫力を感じる。これは根茎と呼ばれる地下の器官に花を包んだ多くの芽が形成されるためである。

葉は対生だが、実際に葉と認められるものは先端の4枚で下部の節には鱗片状のものがついているだけである。先端の4枚の葉は対生する2組の節が重なり輪生しているように見える。これを偽輪生(ぎりんせい)という。花は、極めて個性的で花びらもガクもない。このような花を裸花(らか)または無花被花(むかひか)という。雌しべと雄しべだけからなる花が集合して穂を形成している。1つの花は緑色の徳利のような形をした雌しべと、その雌しべの側部から突き出た雄しべで構成されている。雄しべは白い花糸が3本に分岐している。つまり刷毛状に見えるのは雄しべということになる。普通の花の雄しべでは花糸の先端に花粉を包む葯という袋が着いているが、ヒトリシズカでは花糸の基部の下側に葯が付着している。しかも真ん中の花糸には葯は退化して無いものが多い。     
 このように、ガクと花びらを欠き、雄しべが雌しべの側部に合着している花の形態はセンリョウ科に属する植物のみがもつ特徴である。フタリシズカもセンリョウ科の草本であるが、これらが常緑樹であるセンリョウと同じ仲間というのも不思議なことである。

バッコヤナギ(Salix bakko ヤナギ科ヤナギ属)

山地や丘陵の日当たりの良い林縁に植生する落葉広葉樹。ヤナギ類の中ではオノエヤナギ、シロヤナギなどとともに高木に属し、樹高10mぐらいになる。バッコヤナギは高木タイプのヤナギではオノエヤナギとともに葉が展開する前に花が咲くタイプの代表種。吾妻・安達太良連峰周辺のヤナギの仲間ではヤマナラシに次いで開花が早い。

ヤナギ類は雌雄異株で花は花弁とガクを欠く裸花が集合した穂状花序である。花芽は腋生で、バッコヤナギの葉は互生なので花穂の着生も互生である。小花は有毛で上部が黒色の苞と呼ばれる器官で仕切られている。雄花の小花は雄しべが2本あり花糸は離生し、各雄しべの先端に黄色の葯が2個着いている。雌花は緑色の花柱と黄色で2つに分かれた柱頭で構成されている。

葉は楕円形で表面は光沢があり、裏面は綿毛が密生する。葉縁は波状の鋸歯がある。新葉時の葉は裏側に巻く。

ヤナギ類の花は外観が似ているので見分けるのが難しいが、バッコヤナギは花が太く大型なので他のヤナギ類と容易に区別できる。特に、雄花は黄色い葯をたわわに抱え、その姿は実に暖か気で、春の到来を謳歌しているようである。これに対し雌花は遠くから見ると緑がかって見え、雄花のような派手さは無く控えめである。

別名をヤマネコヤナギという。茶褐色の鱗片が割れ、発芽間もない頃の花穂は銀白色に輝き、ネコヤナギそのものである。


バッコヤナギ雄花
















バッコヤナギ雌花

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