吾妻・安達太良花紀行12 佐藤 守

アカモノGaultheria ovatifolia ssp. adenothrix ツツジ科シラタマノキ属

アカモノとゴゼンタチバナ

深山〜亜高山の林縁に植生する常緑の小低木。草の仲間といっても疑う人は少ないと思われるほど、樹高の低い木である。花も葉も個性的な形をしていて良く目立つ。私はこの赤いストライプが入った花を眺めていると、子供の頃、喜んでなめた飴玉に、これと似たようなものがあったような気がしたり、お盆の時に飾られる綺麗なちょうちんの中にこんなものがあったような気がしたりしてしまう。

葉は互生。花は頂腋性花芽で、先端が5裂したベルフラワーを数個咲かせる。がく片も5裂し、朱赤色のがくと赤いストライプ入りの白花弁とのコントラストが極めて鮮やかである。雄しべは10個で5を基本としている。本州での分布域は日本海側型で、積雪地帯を好むようである。

アカモノ(赤物)の名前の由来は赤桃からきたとされる。これは、果実が赤くて、甘いのでモモに見立てたものとの説が一般的である。しかし、個人的には疑問を感じている。果実のイメージからは到底、モモは連想できない。また形態学的にもモモは子房が肥大した真果(しんか)であるのに対し、アカモノの果実はがくと花弁の付け根の花たくが肥大したもので偽果(ぎか)に分類されるものである。またモモは赤いのが普通で白いモモをシロモモとは呼ばない。白いモモはハクトウ(白桃)である。シラタマノキの別称であるシロモノの果実との対比からアカモノと呼ばれたとの説の方に説得力があるように思う。ちなみに日本に植生するシラタマノキ属の植物はアカモノとシロモノの2種だけである。アカモノ群落はゴゼンタチバナ群落と相性がいいようである。両種が混生した群落は開花期も一致するため花の時期はパッチワーク的な美しさが素晴らしい。

別名のイワハゼについては、なぜこう呼ばれるのか解説した本を見たことがない。ハゼはウルシのことを指す。葉の形から連想した呼称なのだろうか。こちらの命名の由来は全く不明である。

ミツガシワMenyanthes triforiata ミツガシワ科ミツガシワ属

山地から亜高山帯の沼沢周辺に植生する多年生の水生植物。北半球の各地の地層から種子の化石が発見されていることから、北極周辺の地域を起源とする植物が氷河期に南下して暖地に植生し、現在の亜高山帯等に取り残された残存植物とされている。1属1種なので氷河期以来、種の分化がなかったことになる。

葉は互生でカシワに似た小葉で構成される3出複葉。葉は睡菜葉と呼ばれ胃に効くらしい。花は総状花序で花弁、おしべともに5個である。個性的なのは、花弁にきわめて繊細な白い毛が多数生えていること。その機能はいまだに解明されていないらしいが、それがとても清純なイメージの花に仕立て上げている。加えて、めしべが長いタイプの花を咲かせる株と、めしべが短い花を咲かせる株があることも異質。これは長短花柱性と呼ばれる花の形態的繁殖戦略で、イワイチョウやソバも同様のタイプの花を咲かせる。実を結ぶのは長いめしべをもつ株だけであるが、近くに短いメシベのタイプの株がないと結実しない。この形態的特性は同一の花同士での交配をしにくくするためのしかけらしい。しかし、繁殖は地下茎でするので環境が整えば見事な群落を形成する。

吾妻連峰の湿原は個性豊かで、湿原ごとに優占する植物が異なる。私は男沼付近で群落を形成すると本で紹介されていたのを読み、そこを訪れたのだが、確認できず、そこよりも更に標高の高い湿原でかろうじて残った小株を偶然、発見した。この地域一帯に微妙な植生環境の変化が起きているのかもしれない。

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