吾妻・安達太良花紀行11 佐藤 守

キブシStachyurus  praecox キブシ科キブシ属

雄花


キブシは蜜が豊富
(クジャクチョウの訪花)

落葉潅木で山地の林縁に植生する。マンサク、アブラチャン、バッコヤナギと並んで早春を告げる代表的な樹木の花である。これらに共通しているのは、花色が黄色で花の形態が極めて個性的なことである。樹木の世界では黄色は早春のイメージカラーなのかも知れない。

雌雄異株で腋性花芽、葉は互生。冬でも枝先に細い穂状の花芽を髭のように下垂させているのですぐ分かる。花は穂状花序で、葉芽が展葉する前に開花する。枝先に多数の穂状の花が鈴生りに咲いた様はすだれのようでもあり、壮観。小花はがく片、花弁ともに4枚で雄花の雄しべは8個と4を基本としている。雌花は雄花より穂の長さが短く、小花も小さめで、花の色も緑色を帯びる。

雌花は各小花の雌しべが一斉に成熟し、長期に亘って受精能力を維持している。しかし、雄花は雄しべの葯が開いて花粉を放出するのは数本ずつでしかも葯は1日でしぼんでしまう。キブシはコマルハナバチ等を受粉の仲人とする虫媒花である。ハナバチは雄花を集中して訪れる確率が高いので、雄花は常に新鮮な花粉を用意してハナバチに託し、繁殖親としてのチャンスを高めているようだ。これに対し雌花はハナバチが訪れる確率は低いが、1度の受粉で受精が完了するので雌しべの成熟期間が長い方が繁殖には有利ということになる。

キブシは、別名がマメブシ、漢字で書くと‘木五倍子’、‘木付子’、‘旌節花’、 ‘通条花’となる。前の2つは、キブシの果実がおはぐろやタンニン(柿のごまの主成分)の原料にされたフシ(付子、五倍子)の代用とされたことからつけられたもの。フシとは虫こぶの総称である。おはぐろの原料とされたのはヌルデノミミフシでヌルデノオオミミフシアブラムシ(ヌルデノシロアブラムシ)がヌルデに寄生してつくる虫こぶ。後の2つは恐らく花が咲く様からつけられたものと思われる。「旌」は幟旗で、東和町の「木幡の幡祭り」をイメージすれば納得する。私は‘旌節花’、 ‘通条花’の方が情緒的でふさわしい様に思う。

 

スミレサイシンViola vaginata スミレ科スミレ属)

日本海側を中心とした多雪地帯の山地に植生する。半陰性で沢沿いや、湿った落葉樹林下で群落を形成する。スミレサイシン節として区分されている地上茎を持たないスミレ群の代表的な種。同じ群に属するアケボノスミレは、分布域が太平洋側でスミレサイシンと住み分けている。高山から安達太良連峰に至る一帯ではこの両者が植生し、分布上の境界となっていることが良く分かる。繁殖は、地下茎と種子で行われるが、周年性があるのか、土湯周辺や高山、安達太良山麓では、2000年の春は例年に比較して、スミレサイシンの群落が良く発達していた様に感じた。

スミレサイシンは花が大型で良く目立つ。花色は美しい紫であるが、光を受けると退色しやすいため、その度合いによって株ごとに濃淡がある。距は短いが太い。側弁内側には毛が無い。葉も大型で先がとがった特徴的な葉形は、ウスバサイシンの葉に似ている。名前はこの葉の形に由来する。名だけではなくウスバサイシンとスミレサイシンは開花期と植生域が重なり、地下茎が食用にされることや蝶の幼虫の餌となることも良く似ている。土湯周辺の林では、このスミレサイシンとウスバサイシンの花がカタクリ等と一緒に観察できる。しかし、そのような美しい林も伐採をかろうじて逃れた小規模なもので、これらの植生域が常に伐採や廃棄物の不法投棄の危険性にさらされている現実があることを忘れてはならない。

スミレサイシンではシロバナの変異種が見られる。シロバナ種は関東以西の太平洋側に植生するナガバノスミレサイシンに比較すると発現頻度は少ない。私は、この時期よく人が訪れるところで見つけたのだが、誰も気にとめる様子がなかったのはシロバナスミレサイシンにとっては幸いだったかもしれない。

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