吾妻・安達太良花紀行10 佐藤 守

アヅマホシクサEriocaulon takae Koidz. ホシクサ科ホシクサ属)

亜高山〜高山帯の湿地に植生する一年草。アズマ(=東)ではなくアヅマ(吾妻)の地域名がついている唯一の植物。吾妻連峰唯一の固有種である。今のところ他の山域での植生は確認されていない。吾妻連峰の標高1500mから1760mの範囲の高層湿原で植生が確認されている。葉は根生で細く、殆ど目立たない。1つの株から2,3本の花茎を伸ばしてその先端に頭花を咲かせる。花は雌雄異花が普通であるが、稀に両性花もつける。小花を包む苞の先端部の縁に鋸歯があるのが本種の特徴である。花弁数は3、雄しべは6本、雌しべは3心室であり、3数性を示す。雄花は葯が黒いので、白っぽい雌花と見分けがつく。ホシクサは‘星草’で、頭花を星に見立てたのが、名前の由来といわれている。

私は、アヅマホシクサの存在は知っていたが、湿原植物であり、しかも貴重種であることから、登山道以外は立ち入ることのない一般人に、姿を見せることは無いだろうと思っていた。夏のある日、息子を連れて、知人夫妻と山の散策に出かけた私は、通りかかった湿原の水面がきらきらと煌いている光景に目が曳かれた。良く見てみると、丁度水面のところで咲きそろったアヅマホシクサの花が微妙にゆれるため、水面に星を散らしたような景観になっていたことが分った。花の高さと水深が偶然一致したために実現した景観ではあるが、‘吾妻星草’の名前に納得した一時であり、そこはまぎれもなく、この世の楽園であった。
 
‘吾妻星草’は、透明な水質で他の植物が侵入定着していない湿地にのみ植生していることが福島植物研究会の調査で明らかにされており、その植生環境が汚染されないように注視していきたい。 

ハクサンフウロGeraniaceae yesoense var.nipponicum フウロソウ科フウロソウ属)

亜高山〜高山帯の草地に植生する多年草。細身の草姿の先端から花茎を立て鮮やかな赤桃色の花を咲かせるこの高山植物は、群生することもあり、高山の雪田沿いの草地で良く目立つ。葉は対生で、葉柄が長く、ニリンソウに似た5つの深い切れ込みをもつ掌状葉。先端からニ俣状に花茎が分枝し花を咲かせるところもニリンソウに似る。花弁は5枚、雄しべは10個ある。黒い筋の入った花弁が印象的。種子で繁殖する。

フウロとは変わった名前だが、漢字では‘風露’と表す。名前の由来は知らないが、風通しのいい草原に群生するこの花は、朝露に濡れた花びらがひときわ美しいのは確かで、その姿を‘風露’と表現した名づけ親は、かなりのロマンチストではないかと思う。吾妻連峰では西大巓から西吾妻にかけて植生するが、東吾妻側では見られない。また高山のイメージが強いこの花が、鬼面山の旧峠一帯でも群落を形成している。何故、鬼面山にハクサンフウロが植生するのか、不思議である。種子が西大巓から北西風に乗って飛んできたのだろうか。

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