吾妻・安達太良花紀行65 佐藤 守

ヤマボウシ(Cornus kousa ミズキ科ミズキ属)

コナラ林からブナ林にかけて植生する落葉広葉樹。日本の広葉樹林を散策していると庭園から誤って苗が持ち出されて植栽されたのではないかと思ってしまうほどに花が魅力的な樹木がある。ヤマボウシとシャラノキ(ナツツバキ)はその双璧ではないだろうか。芽とシュート(枝梢)の着生に規則性がある。枝は長枝と短枝を形成し、花芽は短枝の先端に着生する。冬芽は、葉芽1対(2枚)、花芽は2対(外鱗片と内鱗片)の鱗片に包まれる。

葉は十字対生である。葉形は広卵状で、葉の先端部は尖る。葉脈は葉縁の曲線に沿うように平行に先端方向に流れる。そのため葉脈に沿って外側から葉を切っても残った葉は楕円形の葉形を保ったままの形状を維持する。ミズキの葉形はヤマボウシに似るが葉脈は葉身を横断して葉縁に流れる。葉縁は全縁であるが細かく波打つため鋸歯があるように見える。葉裏の葉脈の分岐部には褐色の毛叢がある。

花は頂性である。花芽が発芽すると花柄を伸ばし、その先端に4枚の総苞片に包まれた頭状花序を形成する。総苞片は葉と同様に十字対生に着生する。総苞片は花序の露出時は細長く緑色を呈しており、開花まで成長を続け、色も緑色から白色に次第に変化し満開時には純白となる。更に、開花期の終り頃になると淡赤色を帯びる。花は総苞片の中央に見える球状のもので30個以上の小花で形成されている。小花の花弁は4枚で黄緑色。雄しべも4本で葯は黄色である。雌しべの柱頭は透明感のある白色で2つに分かれる。開花は頂部の花が最初に咲き、以後は下から上に咲き上がる。

吾妻・安達太良山でのヤマボウシの開花は、6月上旬頃で総苞片が純白に輝く頃になると梅雨入りを迎える。

ユビソヤナギ(Salix hukaoanaヤナギ科ヤナギ属

 

ミズナラ林からブナ林にいたる氾濫した河川敷に植生する落葉広葉樹。日本固有種。環境省のレッドデータブックでは絶滅危惧種U類に指定されている。1972年に群馬県谷川岳を水源とする湯檜曽川河川敷で発見されたことが命名の由来になっている。近年、新たな植生地発見の報告が相次ぎ、絶滅危惧種としては珍しい現象が起きている。福島県でも2003年只見川流域(伊南川)河川敷で群落が発見され、話題になった。その後、吾妻山麓でもユビソヤナギの群落が形成されていることが確認された。多雪地帯の氾濫を繰り返す自然度の高い河川敷で形成される河畔林の重要な構成種とされている。樹皮の内皮が黄色に着色する。

葉は互生で葉の形は細長く先端は長く尖り、葉縁には波状で先の尖った鋸歯がある。表面は革質で光沢があり、若い葉の葉縁は内側に巻く。葉裏には縮れた毛が着生する。葉の形態はオノエヤナギに似る。

花は腋性。雌雄異株で葉が展開する前に花が咲く。花柄は無い。花器の基部には腺体が1個ある。雄花は、葯は2個あるが花糸は合着し1本である。オノエヤナギの花糸は2本に分離しているので区別できる。葯の色はオレンジ色から黄色でオノエヤナギに似る。雌花は、子房は黄緑色、花柱は透明感のある白で柱頭は黄色味を帯び二つに分かれる。また苞は雄花、雌花ともに黄緑色だが先端は黒色で丸い。オノエヤナギの苞の先端は三角形で尖る。

ユビソヤナギは西和賀を訪れた際に、瀬川さんからその群生地を案内され、内皮や雄花の特徴を教えていただいた。その時は只見川流域でユビソヤナギが発見されて間もない頃で何故こんなにも隔離分布しているのか、不思議に思った。その後、吾妻山山麓でもユビソヤナギが植生することを知り、花巡り仲間と植生地を訪れた。その流域は以前に森林生態系保護地域指定に向けた調査の際に私が担当した山域であった。当時は、樹木の知識も乏しい上にユビソヤナギが県内に植生するとの情報も無く、オノエヤナギと判断したと思われる。あれから、かれこれ30年近くが経とうとしているが、不思議な因縁を感じるのは年老いたせいなのだろう。


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