吾妻・安達太良花紀行62 佐藤 守

ヒメイワショウブ(Tofieldia okuboi チシマゼキショウ科チシマゼキショウ属)

 

亜高山帯の湿地帯と砂礫地に植生する多年草。日本固有種である。安達太良山域には植生せず吾妻連峰の限られた山域に分布する。イワショウブとヒメイワショウブはユリ科チシマゼキショウ属に分類されていたが、DNA解析に基づく分類体系によりイワショウブはチシマゼキショウ科イワショウブ属として分けられた。イワショウブは4倍体で2倍体のヒメイワショウブと比べると草姿は大型である。イワショウブは吾妻連峰の高層湿原に植生し、植生地は明らかに離れている。
葉は根葉と茎葉に分かれる。葉は単面葉で、中肋に沿って表面が折りたたまれ裏面が外側に現れる。葉の縁には細かい突起がある。

 花は頂性である。根生葉から花茎を伸ばし先端に総状花序を形成する。小花は1つの苞に1花着生する。これに対しイワショウブは3花咲かせるので苞に付く花の数を観察することでイワショウブとヒメイワショウブは識別できる。またイワショウブの花茎部には腺状突起があり粘るが、ヒメイワショウブは突起が無く滑らかである。花被片は緑白色で6枚、雄ずいも6個で、葯は黄色である(イワショウブの葯は赤紫)。雌しべの花柱は緑色で浅く3裂する。柱頭は白色透明である。

 吾妻山の高山植物に興味を持ち20年以上、観察を続けているが、縁がないのか存在は知っていても花の時期に巡り合うことの無い植物が幾つかある。ヒメイワショウブもその一つであった。数年前に、終わりかけた花を着けたヒメイワショウブを1株だけ確認した。その後に越後や蔵王山系でイワショウブの群落に度々遭遇したが、ヒメイワショウブを見かけることは無く、この植物が高山でも貴重な存在であることを認識した。幸いにして、本年、ようやく花が咲き揃ったヒメイワショウブの小群落に遭遇することができた。

チョウジギク(Arnica mallotopus キク科ウサギギク属)

亜高山針葉樹林の湿原に点在する潅木帯に植生する多年草。日本固有種である。東吾妻山域と西吾妻山域の境界付近に隔離分布する。このような局在型の分布の仕方は、吾妻連峰の植物ではオヤマソバと似ている。分布域が日本海型の植物で会津や飯豊で確認されているが、安達太良山域では確認できていない。福島県では吾妻連峰が分布の東限かもしれない。ウサギギク属はキク科キオン族に分類され他の属とは葉が対生であることで区分されている。舌状花を持つウサギギクと舌状花をもたず筒状花のみのチョウジギクの2種で構成される。葉が対生であることを除けば、ウサギギクの外観はチョウジギクとの類似性は全く認められない。

 

葉は対生。1対の対生葉が地際部から90度回転しながら数段着生する(これを上から見ると十字に目えるので十字対生と言います)。葉は長楕円形。 葉柄は無く葉身基部は鞘状になる、縁には粗い鋸歯がある。葉の両面はざらつく。

 

花は頂性。真っ直ぐ伸びた1本の茎の上部に散房状に長い花柄を分岐しそれぞれの花柄の先端に頭花を1花着生する。花柄には白く長い毛が密生する。頭花の筒状花は深い黄色で先端は4裂する。開花すると筒状花の中心から花柱が伸びる。柱頭は透明感のある黄色で2つに分かれ反転する。茶褐色の雄ずいが花柱の周りに癒着する。

 

かつて、吾妻山系の中に在って、独特の植生を見せる山域があり、集中的に通った時期があった。目的の花々の撮影に成功し、興味はヒカリゴケに移っていた頃に、予期せずチョウジギクに遭遇した。開花期はもっと後だろう思い込んでいた。端整に生えそろった白い毛をまとった花柄の様子が美しくも奇妙で、動物の様でもあり、人工的な装飾玩具のようでもある。多くのキク科の植物の中でも決して見間違うことの無い、独特の魅力をもった個性派である。それ以来、出会うことは無かったが、17年ぶりに再会することができた。その時、心がときめいたのは心臓が弱くなったせいだったのだろうか。


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