吾妻・安達太良花紀行60 佐藤 守

フッキソウ(Pachysandra terminalis ツゲ科フッキソウ属)

 

    コナラ林からミズナラ林の半陰性の湿った林床に植生する常緑小低木。名前は草であるが幹が肥大し、挿し木繁殖できることから木本に分類される。株全体の外観はチングルマよりは樹木のように感じられるが、茎が柔らかいのが草を連想させるのかもしれない。吾妻・安達太良山域では意外と自生地は少ない。落葉で被われた湿地を好む植物であることから、周辺の樹木伐採に伴い生育地の腐葉層の分解と乾燥化が進み好適環境が少なくなってしまったのだろうか。根茎と種子で繁殖する。

 

葉は互生である。地下茎の節から地上部に茎を分岐する。地上茎の下部はほふく性で上部は立ち上がる。葉は下部に数枚の葉群を形成し、更に茎が伸びて上部の葉群を形成する。上部の葉群は間隔が密になり輪生状になる。葉形は卵状楕円形で葉身の中央部から先端までは粗い鋸歯がある。基部は楔形に葉柄に流れる。葉は革質で厚く、表面は光沢がある。茎、葉ともに無毛である。

 

花は頂性。先端の葉群から花茎を延ばし穂状花序を形成する。雌雄異花で雌花は花序の基部に数花着生する。その上に多数の雄花が穂状に着生する。花弁は無く、4枚のがく片が雄しべと雌しべを包む。雌花は2本の花柱が先端で反り返り1つの雌しべの先端が分岐しているように見える。雄花は4個の雄しべを持つ。雄しべの花糸は白く太く、葯は赤紫から小豆色で雄花はよく目立つ。属名はギリシャ語で太い雄しべを意味し、雄しべの形態が由来となっている。種小名は頂生を意味する。開花期は融雪後間もない時期で極めて早い。果実は核果で種子は1個。1つの花序に付ける雌花の数は数個でどの花序でも限られているのに対し、雄花の数は花序による個体差が大きい。これは開花期が受精環境に恵まれないことから、養分ロスを最小限に抑えるための繁殖戦略らしい。このような雌雄比の偏りは開花期の早い雌雄異花の樹木に共通しているように思われる。

 

スプリングエフェメラルを求めて、ミズナラ林を散策していたところ、偶然にフッキソウの花に遭遇した。葯の色が何とも渋く、雄花にすっかり目が奪われてしまい、その下に雌花が隠れていたのに全く気付かないでいた。今度は雌花をよく観察してみたいと思うが、その機会にうまく恵まれるだろうか。

ササバギンラン( Cephalanthera longibracteata ラン科キンラン属


ササバギンラン


ササバギンラン


ギンラン

     コナラ林からミズナラ林の林内に生育する夏緑多年草。伐採跡地に形成された二次林を好んで植生する。ササバギンランは、炭素源は自らの葉による光合成により同化し、窒素源は外生菌根菌と共生してラン菌根を形成して樹木の根から吸収する混合栄養性植物として知られている。菌根菌とは植物の根に菌根を挿入し、植物から栄養分を吸収する機能をもつ菌種である。菌糸が植物の根の細胞まで入り込むのを内生菌根、細胞の中まで入り込まないのを外生菌根として分類する。外生菌根はキノコを形成するが、内生菌根はキノコを形成しない。吾妻・安達太良山系では類似種のギンランよりも個体数は少ない。

 

葉は互生。葉形は広披針形で平衡脈が走り、笹の葉に似る。基部は茎を抱く。株の基部より上部の葉の方が葉身は長く、最上部の葉は花序より高くなる。葉数は68枚である。葉縁は全縁でゆるく波を打つ。葉色は明るく爽やかな緑色である。ギンランの葉はササバギンランより短く葉数も数枚と少ない。また先端の葉は花序より低い。

 

花は頂性で、茎の先端に総状花序を形成し数輪の白い花を咲かせる。開花期でも花は開かないことが多い。花序の基部に着生する苞葉は、ギンランは短く、ササバギンランは細く花序より長いのが特徴。ササバギンランの種小名は長い苞を有することを意味し、苞の形態が由来となっている。ランの花の形態はユリ科と同様に3数性でそれぞれ3枚ずつの外花被、内花被で形成される。内花被の中央の1枚は唇弁と呼ばれ、独特の形態変化をする。他の2枚は側花弁と呼ばれる。外花被は中央の唇弁と対になるのが背がく片、他の2枚が側がく片と呼ばれる。雄しべと雌しべは合体し、ずい柱を形成する。花粉は粉とはならず粘着部分を持った花粉塊となる。

 

花の写真撮影を始めた今から30年近く前、よく高山に散策に出かけていた。春になると決まってギンランの群落に遭遇した。そんなある日、背が高く品のある装いをした株に出会った。それがササバギンランであった。それ以来、再会した記憶がない。


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