吾妻・安達太良花紀行54 佐藤 守

オオバツツジ (Rhododendron nipponicum ツツジ科ツツジ属

 

多雪地帯のブナ林上部からコメツガ林に植生する落葉低木。日本固有種。日本海型分布の代表種とされ、県内では尾瀬や三国山周辺で植生が確認されているが、吾妻連峰では西吾妻山域ではなく東吾妻山域に隔離分布している。レンゲツツジ、ムラサキヤシオの仲間で、垂直分布としては両種の中間の標高に当たる山域である。

葉は互生で葉芽は枝先の花芽の直下にまとまって着生する。葉形は長楕円形で先端は尖らない。葉の周縁は全縁。葉および葉柄には柔らかい開出毛が散生する。ハクサンシャクナゲに匹敵する大型の葉が名の由来。

花は頂性で葉が展葉してから開花する。展葉後に開花するツツジは本種とバイカツツジ(Rhododendron semibarbatum)のみである。花序は散房状で510花の筒状のベルフラワーを咲かせる。花色はやや黄ばんだ白で、先端は5裂する。花の内側に散らばる淡緑色の斑点が外側まで透ける。雄しべは10本でムラサキヤシオと同じ。なお、レンゲツツジは5本である。花柄は腺毛が密生し粘る。

手元の資料や聞き取りによりオオバツツジの自生地での開花期は6月下旬と記憶していた。2010725日の観察会で、山鳥山からのコメツガ林でオオバツツジらしい果実を見つけた。長年の山仲間のOさんと、翌年は花の時期に再訪しようと話していたのだが、翌年の大震災によりそれどころでなくなってしまった。この夏の観察会は薬師森を予定していたが、登山口のある滑川温泉までの道路の復旧が間に合わず不通のままで、担当のKさんの機転で急遽、駱駝山に変更しての実施となった。予定していた観察コースの路程が長いことから、私は、復興された古典ルートまではと先を急いでいた。見たことのない花が咲いているとの参加者の声に、戻ってみるとなんとオオバツツジの花であった。私は、開花期はすでに過ぎたと思い込んでいたために、下見の時も見逃していたのだ。積み重ねた観察会で育んだ仲間達の多くの眼によってかなえられた貴重種の大発見であった。

オオバミゾホオズキMimulus sessilifolius ハエドクソウ科ミゾホオズキ属

 

多雪地帯のブナ林を流れる沢沿いや高層湿原などの多湿地に群生する多年草。安達太良連峰では鬼面山、吾妻連峰では西吾妻山域に自生する。東吾妻山域では未確認である。属名は道化者を意味し、花冠の形を、歯をむき出して笑っているような道化師の姿に見立てたもの、種小名は柄の無い葉を意味する。DNA分析に基づくAPG分類体系では、ミゾホオズキ属はゴマノハグサ科からハエドクソウ科に変更された。

葉は十字対生で、葉柄は無い。葉形は長卵形で先端は尖る。葉縁には上向きの鋭い鋸歯がある。葉身には短毛が密生する。葉基部から走る平行脈が、規則的な草姿を強調する。茎は断面が四角形で分岐せず直立する。地下茎の発達が良く、大群落となる。

花は腋性で葉腋から長い花柄を伸ばし、ラッパに似た花筒と裂片から成る鮮黄色の合弁花をつける。花は1葉に1個着生するので花の付き方も対生状となる。花の形態は唇形花冠と呼ばれ、二唇性を示す。上唇は2裂。下唇は3裂する。下唇の内側には赤色の斑点がある。下唇真下の裂片は中央部が溝状に窪み、その両側の稜線部は赤斑点と棍棒状の腺毛が密生する。赤斑点と腺毛は両側の下唇裂片にも散生する。雄しべは4本あり、下の2本が長い。雌しべは1本で花柱先端は2つに分かれる。花の黄色い水辺の山岳植物には本種の外にキツリフネ、タマガワホトトギスがあるが、いずれも赤い斑点を有している。ガク筒先端も5裂し、結実後、裂片先の枝と呼ばれる器官が伸長し、果実を包みホオズキの実のようになる。

1997年に初めてオオバミゾホオズキの花を見た。コケティッシュなキツリフネとは対照的に、花の姿は幾何学的な美しさが際立っていた。オオバミゾホオズキの自生地は限定的であり、裏磐梯でミゾホオズキとセットで確認して以来、長い間ご無沙汰していた。山岳植物の本格的な花の季節を迎える6月になると、どこを訪問すべきか悩まされるのだが、今年は無性にオオバミゾホオズキの花を見たくなり、6月早々に思い出の地を訪れた。16年前と同じ場所に、その群落は健在で、最初の一輪を観察することができた。その日は幸福な1日となった。


 花紀行目次へ