吾妻・安達太良花紀行51 佐藤 守

ツリバナ(Euonymus oxyphyllusニシキギ科ニシキギ属

 


 

ヒロハツリバナ

コナラ林からブナ林にかけて植生する落葉低木樹。ブナ林の基本樹とはされていないが、吾妻・安達太良連峰のブナ林下部では、同属のマユミと並んでよく見られる。マユミ、ツリバナともに果実は鮮紅色で美しい。

葉の着き方は対生。葉形は卵形から長楕円形。葉縁は細かい鋸歯があり、種小名(尖った先端)が示すように葉の先端は細長く尖る。葉の両面とも無毛。低木であるためか、ブナ林の中では林床に充分日が当たる4月下旬頃に他の樹木に先駆けて発芽、展葉する。

花は集散花序で、葉腋から6,7cmの長い花柄が垂れ下がり、分岐した先に小さい花を十数個着ける。小花の構造は5数性で、花弁は5枚,萼片は5裂、雄しべは5個である。また花托が平板状に盛り上がって5角形の花盤と呼ばれる器官を形成する。雄しべと雌しべは花盤の中に埋もれ、葯と柱頭のみを露出している。花弁は緑白から白であるが、1部の花はうっすらと赤紫色を帯びる。ツリバナ類は5数性であるが、ヒロハツリバナのみ4数性を示し、花弁は4枚なので花弁数でツリバナとの識別が容易にできる。

マユミは花柄の長さがツリバナより短く、花も果実も4の数字を基本とし、分布域もツリバナより狭い。ツリバナは吾妻・安達太良連峰の山麓から1200m付近まで分布する。

かつて、樹木の植生調査のため高山山麓のブナ林を度々、散策していた時代があった。森に行く度に新しい発見があり、またカエデの花の魅力に捕われていた時期でもあった。成熟したブナ林の林床は日差しが限られ、花を着けている樹木は少なかった。そんな中でミズナラとブナの大木の間で、それまで見たことのない白っぽい花をクリスマスツリーの様に多数ぶら下げている樹木に遭遇した。その時は葉が対生であったことからカエデの仲間かと思ったが、写真と図鑑との照合でツリバナという樹木があることを初めて知った。

コヨウラクツツジ (Menziesia pentandra ツツジ科ヨウラクツツジ属)

 

ブナ林から亜高山針葉樹林にかけての林縁や岩礫地に植生する落葉低木。吾妻・安達太良連峰に植生する同属のツツジ類には、ガクウラジロヨウラクがある。ヨウラク属のツツジは、コヨウラクツツジ以外は日本固有種である。コヨウラクツツジのみ海外の寒冷地に分布している。このことから寒冷地型の樹木であることがうかがえる。植生域の重なるムラサキヤシオツツジとは対照的に、コヨウラクツツジの花は小さく、目立たないので注意しないと花を見落としてしまう。種小名は「5雄ずい性」を意味する。花の構造は5数性を示す。

葉は互生であるが枝の先端にほぼ輪生状に5、6葉を着生する。葉形は楕円から長楕円形。葉縁は全縁で葉の表面と縁には長い開出毛が着生する。葉の先端は尖り、その先に腺状突起を形成する。特に、この器官は、展葉初期は球状で赤色を呈し、よく目立つ。

花は頂性で茎の先端から放射状に長い花柄を伸ばし、26個程度の小さなベルフラワーを咲かせる。花柄には腺毛が密生する。花冠の形は、整形から多様に歪む。花冠の先端は黄色を呈し、開花すると5裂片に反転する。花冠からは雌しべが突き出る。雄しべは5個、ガクは5裂する。花色は黄緑色から赤褐色までグラデーション状に多様な色彩を帯びる。

コヨウラクツツジの花は同時期のムラサキヤシオツツジと比較すると花の大きさだけでなく、色彩も控えめである。また、同属のガクウラジロヨウラクと比較して花の数も少い。しかし、コヨウラクツツジは花の形と色彩が多様で、11個の花の個体差を観察していると1つとして同じものはなく、飽きることがない。加えて、葉の先端の赤い突起物と長い花柄の先端に着いた花冠との2層構造の姿がユニークで他のツツジ類には無い味わいがある。この花に出会うと、自然に足が止まってしまうのは不思議だ。いつの間にか、この花を見つけるのが早春の山歩きの楽しみとなってしまっている。


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