吾妻・安達太良花紀行50 佐藤 守

ミネズオウ (Loiseleuria procumbens ツツジ科ミネズオウ属)

 

 

山頂効果等で乾燥した岩礫地に植生する常緑性小低木。匍匐性の茎を持ちシモフリゴケやガンコウラン、コケモモ、コメバツガザクラとともに岩間を埋めるように群落を形成している。1属1種のツツジ科のわい性樹木。「スオウ」はイチイの別名で葉の形状がイチイに類似することから峰に生育するイチイに見立てて命名されたとされる。種小名は「平伏または仰臥した」を意味する。

葉は対生で革質の細長い葉を密生する。コケモモ、コメバツガザクラに類似するが葉の大きさはコメバツガザクラ、コケモモより小さい。葉色は淡緑色で他の2種より淡い。コケモモの葉は互生、コメバツガザクラは3輪性なので葉の着き方で区別できる。葉縁は裏側に巻き込み、葉裏の主脈には毛がある。

花は頂性で茎の先端に散房花序を形成し、26個程度のベルフラワーを咲かせる。開花は周辺部からで中央部に未開花の蕾を残した姿は品のいいブーケを思わせる。花色は白が基本だが、時にピンク色を帯びる。開花すると先端から中ほどまで5裂する。雄しべは5個で葯の色は鮮やかな赤。直径35 mmほどの花だが、群落一帯に咲きそろう様は可憐さと凛々しさを備え、「岩場の乙女」の名が相応しい。開花期はミネヤナギ、ミネザクラと同期で、5月中下旬〜6月上旬であるが、雪解けの早晩で左右される。ツツジ科の多くの花は下向きに咲くのだが、これとは対照的にミネズオウは上向きに花を咲かせるので赤い葯がアクセントとなって星屑がきらめいている印象を持たせる。厳しい環境に生育することから訪花昆虫や風を受け止めやすくしているのかもしれない。

吾妻・安達太良では冬場の偏西風の直撃を受ける稜線上で部分的に偽高山帯の地形が見られるが、ミネズオウはそのようなところを好んで生育している。また、ブナ林上部の樹林帯中に残る岩稜帯にも分布することから、極度の乾燥地に対する適応性が高い樹木ではないかと思われる。またミネズオウの群落ではガンコウランも同時に見られるが、コメバツガザクラとは微妙に植生域が異なるようでコメバツガザクラとは住分けているようだ

オオカメノキ(Viburnum furcatumスイカズラ科ガマズミ属)

ブナ林から亜高山針葉樹林にかけて植生する落葉低木樹。ブナ‐チシマザサ群集の標徴種とされ、多雪地帯のブナ林を特徴づける基本的な構成樹。特にブナ帯の傾斜地に多く植生する。名の由来は葉の形を大きな亀に見立てた説が一般的だが他に諸説がある。別名の「ムシカリ」は「虫食われ」が訛ったものとされる。種小名は「二又または又状」を意味する。花序の軸が分岐した姿を表したものと思われる。

葉は対生。葉形は卵形で先端は尖る。葉縁は重鋸歯が発達し、葉身には深いシンメトリックな並行脈が走り、葉柄には星状毛が密生する。葉の基部は心形に窪み葉柄と連なる。

花は頂生で茎の先端に大型の散房花序を形成する。小花は合弁花で花弁は平開する。花冠は5裂し、雄しべは5個、花序軸は5本で5数性を示す。花序は周辺の装飾花と中央部に集合した多数の両性花で形成されている。装飾花は大型で中央部に小さな葯の痕跡が残るが繁殖能力はない。装飾花は訪花昆虫を誘引する役割を担っているとされる。両性花は小型であるが繁殖能力を備えている。花序に柄はなく、2枚の葉の分岐部から装飾花と両性花を着生した4本の軸とその中央部から両性花のみの軸と併せた5本の軸が直接、展開する。植生域の重なるガマズミ、カンボク、ヤブデマリは有柄花序である。

明るく輝く黄緑のブナ林を通り抜ける風に純白のオオカメノキの花が揺れる様は初夏のブナ林の清涼感を一層強める。特に、花冠の装飾花の白が際立つが、装飾花の咲き始めは緑黄色を帯びていて瑞々しさを漂わせている。入梅前に谷地平を散策しようと、姥ヶ原を抜けオオシラビソ林に立ち入った。鬱蒼として薄暗い針葉樹林帯に開かれた登山道の先に日差しが筋状に差し込み、淡い緑色を帯びた花を照らし出していた。早速その花に近づき花の主を確かめようとしたが、いままで遭遇した植物で似たものが思いつかずしばらくたたずんでいると、特徴のある葉に気づきそれがオオカメノキの咲き初めであることを知った


 花紀行目次へ