吾妻・安達太良花紀行48 佐藤 守

マルバマンサク(Hamamelis japonica var. obtusata マンサク科マンサク属)

 

コナラ林からミズナラ林の沢沿いなどやや湿った平地に植生する落葉小高木。関東以西に分布しているマンサクの変種で多雪地帯に植生する。
 葉は互生、有柄で葉形は左右不対象に崩れたひし形。葉身の上半分が丸みを帯びることが名の由来である。変種小名のobtusata は鈍頭を意味し、葉の先端の角度が緩やかなことを意味する。葉縁は葉の下半分は全縁であるが上半分は緩やかな波状となる。葉脈は葉柄から先端に走る主脈から両側に5、6対の側脈が葉の下半分の葉縁と並行に斜上する。
 花は腋性、短枝に複数の花軸を付け、その先に2〜4個の純正花芽を着生する。花は両性花。花の構造は4数性で、がく片、花弁、雄しべともに4個である。がくは赤紫色で反転する。花弁は黄色でリボン状に細長く、縮れる。がく片と花弁の色どりが華やかな雰囲気を醸し出す。雄しべの間には短い仮雄しべ(花粉を作らなくなった雄しべ)が残存する。雌しべは柱頭が2分する。アブラチャンと並ぶ迎春花で、早春に他の樹木に先駆けて花を咲かせる。2月下旬頃には高山登山口にいたる雪深い男沼林道周辺でもマンサクの黄色い花を観察することがある。開花期間は長く、葉の展開は花が咲き終わってからである。
 マンサクは花芽の分化が難しいのか樹冠全体に花を咲かせる樹は少ない。2011324日、私は防護服に身を固めて川俣町、飯館村、南相馬市の放射線量のモニタリング調査に従事した。何故、原子力関係の職場でもない私の職場に出動要請がされたのか、その理由も、命令を下した責任者も不明のまま。参集したメンバーは私の職場以外はすべて原子力関係を担当する県やJAEA等の職員であった。放り込まれた状況の不合理性と義務感が混とんとした緊張感の中で慣れない測定を繰り返した。石ポロ坂トンネルで測定を終え、ふと山際を見上げるとアカマツ林の縁に黄色い花を全面に咲かせたマンサクがぽつんと1樹。思わず心が和んだ。

クロミノウグイスカグラ(Lonicera caerulea var. emphyllocalyx  スイカズラ科スイカズラ属)

山岳の岩稜帯や湿原周辺の低木林の風当たりの強い林縁に植生する落葉灌木。株立ちする叢状の樹形はマント植生の特性を備えているが、植生域は限定的である。ケヨノミの変種とされる。ケヨノミとは葉形や新梢の毛じの有無で区別されるが、変異は連続的のようである。
 葉は対生。葉形は広楕円形から倒卵形で葉縁は鋸歯がなく滑らか。短い葉柄がある。葉の両面に毛じがある。
 花は腋性で合弁花。花冠表面の毛は無いか少ない。新梢の第13節の葉腋に対生し、下節から順に開花する。花は黄白色で短い花柄の先に筒状の合弁花が2個づつ下向きにつく。花冠は5裂する。雄しべも5個である。2個の合弁花の基部は1つの小苞に包まれる。この小苞の中には2個子房がある。それぞれが2個の合弁化の器官である。果実はこの2個の子房が合着し筒状の小苞も合着、肉質化したものである。このような2個の花なのに果実は1個しか形成されない花と果実の関係はツルアリドオシでも見られる。果実は液果で粉白をおび、濃い青紫色に熟する。
 北海道では山岳地帯でもない平地の原野に広く植生しており、その果実に着目した農家により1977年頃から栽培が始められた。果実がジャムやワインに加工されハスカップとして販売されている。北海道大学の報告では「雌雄同花であるが、自家受精率は低く10%程度で、自然受粉で、約70%程度の結実率である」とある。しかし吾妻・安達太良連峰に植生するクロミノウグイスカグラでは果実を見たことがない。吾妻・安達太良では植生がコロニー状で限定されていることや山岳の厳しい周辺環境から受粉がうまくいかないのかもしれない。


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