吾妻・安達太良花紀行47 佐藤 守

ハクウンボク(Styrax obassia エゴノキ科エゴノキ属)

   
 

ブナとミズナラの混交林の沢沿いなどやや湿った平地や凹地に植生する落葉広葉樹。仲間のエゴノキは比較的乾いた傾斜地や林縁に植生し、住み分けている。

ハクウンボクの葉はその年に伸びた枝に3枚から5枚付くことが多い。葉は、互生であるが、本年枝の基部に付く葉は2枚が対生のように向かい合って付いていることが多い。このため、3枚がワンセットの三出複葉のように見える枝が散見される。葉形は円形で上部には粗い鋸歯がある。葉の裏面には星状毛が密生して緑白色であり、脈が目立つ。

花は頂性で総状花序。葉が展開し、十分成長した後に、先端に大柄の花序を伸ばして多数の白い合弁花を咲かせる。花冠は5裂する。満開時のハクウンボクは白花のツリーで樹全体が装飾され、実ににぎわしい。

ハクウンボクの冬芽は、葉柄の中に納まっており、葉のある間は冬芽が見えず、落葉して初めて芽が見える。これを、葉柄内芽と言う。葉の落ちた跡(葉痕)は、O型あるいはU型になる。葉柄内芽の樹には、ハクウンボクの他にウリノキ、キハダ、ヌルデなどがある。冬芽はムシカリやムラサキシキブと同じく裸芽で、縦に並ぶ副芽がある。新しい枝は緑色であるが、2年目には樹皮が縦に短冊状に剥がれ、紫褐色となる。

ハクウンボクの花には阿武隈山系の日山で初めて出会った。その時は風が強く写真撮影を断念した。今から15年以上も前になる。その後、高山山麓でも度々ハクウンボクを確認することができたが、花を咲かせた個体に遭遇する機会に恵まれず、なかば諦めていた。期せずして開花盛りのハクウンボクの群生地を訪れることができた。年に1度あるかないかの幸運であった。ハクウンボクは環境が整えばまとまって植生することを知った。

アケボノソウ( Swertia bimaculata リンドウ科センブリ属)

 

ミズナラ林の湿地周辺や湿り気のある林縁に植生する2年生の湿性植物。1年目は根生葉がロゼットを形成する。2年目に葉茎を伸長し、散形花序を形成する。

葉は対生する。葉形は楕円形で先端部は尖る。根生葉は長い葉柄があるが茎に着生する葉はほとんどない。葉縁は鋸歯がなく滑らか。基部から3葉脈が葉身を走る。茎は四角形である。

花は頂腋性。伸びきった草姿の先端部に幾何学的に分岐した長い花柄の先に白い合弁花を1個着生する。花冠は深く4または5裂する。雄しべは5本で、雌しべの基部付け根から裂片の間に花糸を伸ばし、裂片を裂くように紫がかった葯を覗かせて開花する。雌しべの柱頭は透明感のある白で2裂する。裂片の中央部よりやや上のところに2個の黄緑色の蜜腺があり、そこから先端部には濃い紫色の斑点が多数、散らばる。学名の種小名は2個の斑点があることを示したもの。花が咲く前の蕾(花冠の外側)は淡緑色の縦縞模様が入りホオヅキの様。花は株の最上部から下に咲き降りる。

アケボノソウの名は蜜腺を月、斑点を星に見立てて夜明けの曙の時刻の空になぞらえたものと言う。命名者の感性に脱帽の思いである。そこからつけられた花言葉は「今日も元気で」となると見ごとの一言。「初恋」と言うのもあるらしいが、こちらは初めてこの花に出会った時の気持ちの高ぶりをうまく表現しているように感じる。

アケボノソウには中吾妻山麓の凹地で初めて出会った。その個性的な花模様に、自然界では計り知れない美しさがさりげないところにちりばめられているものだと実感した。それから、花探しの熱が更に上がる中で、秋口になるとアケボノソウの花の記憶が脳裏をよぎることがあったのだが、多くの魅力的な花々との逢瀬で、忘れかけていた。そんな頃に通りかかった山道を満開のアケボノソウの群落が塞いでいて、ああそうだったと再びあの高まりを思い出した。どこか懐かしい記憶に辿り着いた時の安らぎを感じさせる・・・・そんな花のように思う。


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