吾妻・安達太良花紀行43 佐藤 守

ミネザクラ(Prunus nipponicaバラ科サクラ属)

 

別名タカネザクラ。標高1300m以高のブナ林上部から高山に生育する落葉広葉樹。吾妻・安達太良に植生するサクラの中で、最も高く自然環境の厳しいところで生育する。山に自生するサクラは主幹が直立するタイプが多いが、ミネザクラは分岐性が強く、シャクナゲに似た樹形を示す。日本固有種である。

葉は互生し、未展開葉は赤みを帯びる。葉形は倒卵形で先端は細く長くとがる。葉縁は欠刻状の重鋸歯があり、鋸歯の先は尖り、先端に腺がある。蜜腺の位置は葉柄上部で葉身直下からやや離れている。葉身は無毛が標準。

花は腋性で散形花序。葉の展開と同時に、ひとつの花芽から1〜3花を咲かせる。花序の基部には1対の楕円形で鋸歯を持つ苞がある。花弁は5枚、花弁の先端は浅く窪む。花弁の色は白またはわずかに桃色を帯びる。がく筒はやや釣鐘状で小花柄ともに無毛である。オクチョウジザクラPadetala.var.pilosa)は、花がミネザクラに似た低木性のサクラだが、多雪地の山深い渓流沿いに植生し、がく筒と小花柄ともに開出毛が密生する。

ミネザクラの開花期は早く、雪融けと同時に咲き始める。ミネヤナギが咲き始める頃にはすでに樹の大半の花は盛りを過ぎている。この時期の山の天候は不安定で、花が咲いてから寒波に襲われることもあるため満冠の花を湛えた樹を鑑賞できる機会は多くはない。そのような厳しい環境で幹径20cmまでに成長したミネザクラに出会った。その樹冠は淡桃色の花に覆われ、杯状に大きく広げた枝は、降り注ぐ太陽の光を最大限に受け止めようとしているようだ。周辺ではミヤマスミレが咲きそろい、ともに初夏の訪れを謳歌していた。その後、何度か同じコースを訪ねているが、未だにその場所であの花園は再現されていない。

ミヤマホツツジ(Cladothamnus bracteatus  ツツジ科ミヤマホツツジ属

 

亜高山から高山の湿地周辺や林縁、岩場などの日当たりのよい所に生育する落葉低木。花の形態が独特で、花の姿が類似するツツジの仲間にホツツジ(Elliotia paniculata) がある。ホツツジは山の中腹に群生し、植生域の標高差は明瞭である。

葉は互生し、葉身は倒卵形で葉縁は鋸歯がなく滑らかである。葉先は丸く、尖らない。これに対し、ホツツジはミヤマホツツジより葉が大型でひし形状、ミツバツツジの葉を少し伸ばしたような形をしており、葉先は尖る。枝の先端部の葉は節間がつまる。また枝には稜がある。

花は頂性で穂状花序を構成する。小花は数個で小花柄の基部には1対の苞がある。がくは5裂し、花冠は基部から3裂し、大きく反転する。裂片の色は蕾の頃は先端が赤みを帯びるが開花すると緑白となる。まれに花冠の色が赤色の個体が見られる。雄しべは6個で花糸は偏平で楕円状となり、中央部に赤い筋がある。雄しべの花糸の形状は小さな花弁に見えるほど存在感がある。雌しべは、雄しべより長く花柱が大きく反転する。ホツツジの花は大型の円錐花序で小花も多い。花冠裂片の色は淡紅色で気品がある。雄しべは偏平だが膨らまず、赤い筋も認められない。雌しべは反転せず長くまっすぐ伸び、突き出ている感じである。吾妻・安達太良山域での開花期はミヤマホツツジ(7月下旬)が、ホツツジ(8月初旬〜中旬)より早い。

初めにその存在感を認めたのはホツツジである。青空を背景にした稜線上のホツツジは、長い雌しべと淡紅色のリボンが絡まるような紡錘形のシルエットが爽快な夏山を象徴しているように感じた。ミヤマホツツジは知っていたが質素で目立たないイメージであった。或る夏の日、体力と釣り合わない山行で疲れ、座り込んだ傍にあったミヤマホツツジに目をやると花弁のような雄しべに気づいた。反転した花冠裂片と赤い筋のある雄しべの幾何学的バランスに感動してしばし見入ってしまった。以来、ミヤマホツツジは私のお気に入りとなった。


 花紀行目次へ