吾妻・安達太良花紀行41 佐藤 守

イソツツジ(Ledum palustre ssp. diversipilosumツツジ科イソツツジ属)

火山性の礫地に形成された酸性の高層湿原に生育する低木性常緑樹。安達太良山域が南限となっている貴重種である。

葉は一見して対生のようであるが、節間が伸長した枝についた葉を観察すると互生であることがわかる。葉形は先が尖り、細く長い。葉縁は鋸歯が無く滑らかで裏側に反り返る。革質で中央の主脈の周りに網目状の葉脈が走る。ヒメシャクナゲの葉に似ているが、葉色はヒメシャクナゲより明るい緑色。葉裏は白色の短毛が密生し赤褐色の長い毛が混じる。主脈は赤褐色の長毛が多い。変種小名は多様な毛を意味し、この2種類の毛を指す。

花は頂性で枝先に毬状の総状花序を形成する。小花は花冠が5裂し、基部まで離生するのでツツジ類に一般的な花筒はない。花色は白。葉とは反対に裂片の縁が外側に巻くように波打つ。雄しべは10個で葯は黄白色。雌しべの淡緑色の子房と黄色の柱頭が僅かに色彩感を放っている。

花が咲きそろうと明るい葉色を背景に純白の球状花が引き立ち、さわやかさを感じさせる。冬になると葉色は鈍い赤紫に変色するが、落葉することなく越冬する。大き目の花芽をてっぺんに着け、その下に細い葉を傘のように重ねた姿は人形の様でもある。その可愛い姿を見初めたのは、いつだったか、おぼろげとなってしまった。

南限とされる安達太良山で私が確認できた植生地は対照的である。沢沿いの小さな湿地にわずかに生息する一方で、尾根筋では、季節風の直撃を受ける岩礫地のマント植生に小群落を発達させていた。種小名は沼地に生育することを表しており、その植生的適応性の広さは神秘的である。その秘密を解く鍵は、エリコイド菌というツツジ類特有の菌根菌が、イソツツジの根にも着生していることにあるかもしれない。

花は短命であり、良く晴れた日に花を観察すると、ほとんどの花冠裂片は白色が退色していることが多く、瑞々しい花に出会うのは稀なように私には思える。花は独特の芳香を放ち、安らぎを感じさせるが蜜は有毒とされているので注意が必要である。

トウゴクミツバツツジ(Rhododendron wadanum ツツジ科ツツジ属

ミズナラ林からブナ林にかけて生育する落葉低木。吾妻・安達太良山系では春から初夏にかけて最も早く咲くツツジである。

葉は枝の先端に3枚の葉を輪生する。ツツジ類はヤマツツジなど5葉を基本形とするものが多い中で特異である。葉形は菱形を縦に伸ばしたような端正な形をしており、先端は尖る。葉の縁には細かい鋸歯がある。葉柄には毛が密生する。高山では、ヤマツツジと混生していることが多いが、葉が大型で形も特徴があるので容易に識別できる。枝は長枝が短枝を分岐しながら伸長するので波状となる。短枝の先端に葉芽と花芽が一緒の混合花芽を着ける。

花は頂性。花色は、蕾の時期は濃紅紫色の独特の色合いである。開花すると明るい赤桃色となる。花冠は深く5裂し、上部裂片に斑点が着生する。雄しべはムラサキヤシオ、イソツツジと同じで10個ある。ヤマツツジ、レンゲツツジは5個である。花糸は赤紫色で無毛だが花柱は有毛である。また花柄にも毛が密生する。 

トウゴクミツバツツジは名が示すように関東から中部地方が分布の中心であるが、安達太良や高山のブナ林でもコロニー的に群落が形成されている。この山域のブナ林を代表するツツジであるが、意外と知られていない。花の開花期が葉の展開する前となるため、花着きのいい年のトウゴクミツバツツジは株全体が花冠群に包まれ、華やか。その色合いはどこまでも明るく、気品を感じさせる。

実は、トウゴクミツバツツジは蕾の時期も別次元の美しさがある。トウゴクミツバツツジの花芽では発芽後、急速に花冠が生長するため、鱗片が押し上げられる。この時期、花芽が発芽してしばらくの間は蕾の頭に鱗片が付着したままである。その姿は帽子をかぶったようで、トルコのカッパドキアの奇岩の様でもある。濃紅紫色の色調は怪しく、艶やかで、とても満開期の気品のある姿を想像することはできない。


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