吾妻・安達太良花紀行40 佐藤 守

ナガバノコウヤボウキ(Pertya glabrescensキク科コウヤボウキ属)

クリ-コナラ林からミズナラ林の日当たりのよい乾燥した林縁に植生する林床植物で草状の落葉低木。キク科の中では珍しく樹木の仲間に分類されているが地上の茎は2年で枯れる。樹木と言われてもちょっと奇異に感じるが、樹木から草本類への進化の架け橋の名残と考えると理解できないことも無い。

葉は1年目の枝に着生する葉と2年目の枝(短枝)に着生する葉の形が異なる。1年生枝葉は明瞭な互生で葉の形は広卵形であるが、2年生枝は披針形の数枚の葉を放射状に叢生(束生)する。葉縁には鋭い鋸歯があり、葉脈は3行脈である。2年枝葉の表側は濃緑色で光沢があるが、裏側はやや白くわずかに毛が散らばる。種小名は「ほとんど毛が無い」と言う意味で葉の特長に由来する。

花は束生する2年枝の中央部に頭花を1個だけ着ける。小花はアザミ同様、管状花のみである。花柄は無い。花冠は白く、その先端は深く5裂し、反転するので花の姿はハグマ類に似ている。柱頭は花冠から突き出て2つに分かれる。花柱の周りに紫褐色の5個の雄しべで構成された集葯筒が着いている。地下茎から匍匐するように伸びた1年枝の葉腋から伸びた2年枝の上に花が1年枝に沿って直線状に着生するので花が咲きそろうと株全体が幾何学的な美しさを醸し出す。

この花には、赤面山で初めて遭遇し、その後、土湯周辺や雨乞山、宮城県の蛤山でも群落を確認できた。植生域は連続的ではなくコロニー的分布であるが里山の真夏から秋口にかけての林床植物として無視できない存在である。果実は1cm程度の冠毛が多数着き、晩秋でもその姿が良く目立つ。母種のコウヤボウキは「高野山の箒」と言う意味で万葉集の「玉箒」(たまばはき)とされているらしいが、お目にかかったことはないので、本種はコウヤボウキより冷温帯に適応しているのかも知れない。

サワフタギ(Symplocos chinensis var. leucocarpa forma pilosa ハイノキ科ハイノキ属

カマツカ

サワフタギ

里山からブナ林下部にかけて生育する樹木に「ウシゴロシ」の別名を持つ落葉広葉樹が2種類ある。サワフタギ(沢蓋木)とカマツカ(鎌柄)である。いずれも材質が硬く、牛の鼻輪を作ったことに由来するという。

サワフタギは「ルリミノウシゴロシ」と呼ばれ、沢沿いや伐採後間もない2次林の周縁に植生する。ブッシュ性が強く株立ちする。これはマント植生の構成樹の特徴でもある。葉は互生し、先端が尖った端正な倒卵形で細かい鋸歯と彫りの深い葉脈が醸し出す葉のたたずまいが、気品を感じさせる。似たような特徴を持つアオハダと並んで観葉価値が高い広葉樹と私は思う。 

枝の先端部に上向きの円錐花序を形成し、花は合弁花で花冠は5裂する。蕾は綿棒のような形で白が濃く清楚な印象だが、満開時は多数の雄しべが花冠の外に突き出て花序全体が線香花火を連想させ、華やかである。果実は光沢のある青紫で正に瑠璃実。果実をたわわに着けた株の姿は圧巻。果実の形はゆがんだ円形で中に核化した種子が入っている。

カマツカ(Pourthiaea villosa var. laevis:バラ科カマツカ属)は複散房花序で花は離弁花である。花弁は5枚で花弁の形はほぼ円形。蕾も丸い。雌しべは、花柱が3個に分かれる。果実は赤く、花たくが肥大したナシ状果である。短()枝を多く形成し、冬芽は極めて小さい。葉柄の基部が残り、冬芽を保護する特性を持つ。

カマツカは低山の尾根上でも植生が認められるが、湿性地では両種が混生し、開花期も重なる。染料にも利用され錦織木の別名も持つサワフタギはアルミニウムを多く含むことから火山灰に由来する活性アルミナが豊富な黒ボク地帯を好むのかもしれない。いずれにしても、両種ともに、名前からして人間の営みと古くから深い関係があったことは容易に推察される。


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