吾妻・安達太良花紀行39 佐藤 守

ヤマクワガタ(Veronica japonensisゴマノハグサ科クワガタソウ属)

ヤマクワガタ バンダイクワガタ

ミズナラ林からブナ林にかけての渓流沿いの林縁に植生する多年草。吾妻・安達太良山域の植生域は限られている。
 葉は十字対生で上下の節で葉対は直交して着く。葉の形は広卵形で葉先は尖る。短いが葉柄は明瞭。葉縁は鋸歯があり、同じ形の裂片を規則的に繰り返す。葉の両面には白毛が着生する。
 花は合弁花で、腋性であり、茎の先端の対生に着いた葉腋から花茎を1本ずつ伸ばし1対の花序を形成する。花は総状花序だが、小花の数は数個に留まる。花冠裂片とがく片は4片である。雄しべは2本でその間から1本の雌しべが伸びる。花の色は、図鑑類では赤紫色と紹介されているが、私が出会ったヤマクワガタはいずれも青紫系の色合いであった。多分に土壌の特性(pHや含まれる金属成分)を反映しているものと思われる。雌しべが雄しべ2本に挟まれる花の構造により、夕方に花がしおれた時に、直接、葯が柱頭に触れて同花受粉が可能であり、虫媒受粉と併用した繁殖戦略を確保している。
 果実は扇型で2片のがくに挟まれる。がく片の先の方が幅広くなって尖っている姿が、かぶとの鍬形に似ていることが名前の由来となっている。確かに、幼い頃に新聞紙でよく作って遊んだかぶとのイメージとそっくりである。
茎は根元で分枝して匍匐して群落を形成する。茎には開出毛(真っ直ぐに伸びた毛)が生える。
「クワガタ」の名前を持つ山岳植物としては、磐梯山固有種のバンダイクワガタが有名である。こちらはミヤマクワガタの品種とされるもので葉が重鋸歯を持つことが特徴である。小花の構造はヤマクワガタと同じであるが総状花序が密なことなどからミヤマクワガタはルリトラノオ属に分類される。

タケシマラン(Streptopus streptopoides var. japonicumユリ科タケシマラン属)

ブナ林上部から亜高山針葉樹林帯に生育する多年草。
 茎は直立し、通常は途中で2分岐し、分岐部から葉を10葉程度、互生して着生する。葉の形は下部が卵のように広いヤナギ葉形で先は尖る。基部はまるく茎は抱かない。両面無毛で平行脈が縦に走る。
 先端から3分の2程度までの葉腋から細い花柄を出し、それぞれ1個ずつ花を下垂する。花被片、雄しべともに6個でユリ科の特徴である3の倍数となっている。花被片は、周縁部が黄緑色、内側は淡紅褐色に染まり、質素ながら花らしい装いを整えている。開花は下部の花が早く、順次、上部に向かって開く。花被片は開花した当初は立っているが、やがて平開し、先端は反り返る。
 果実は球形で液果である。成熟すると果皮は鮮やかな赤に着色する。果実が黒く着色するものもありクロミノタケシマランと言う。タケシマランの草姿はホウチャクソウに似ており、ホウチャクソウが青黒い果実を着生することから、クロミノタケシマランと間違えやすいので注意が必要である。ホウチャクソウの分布域はタケシマランよりも標高が低く、また平坦な樹林帯内部に多いがタケシマランは樹林帯内部ではなく傾斜のある稜線沿いでよく見られるような気がする。
 タケシマラン属の植物はヒメタケシマラン、タケシマラン、オオバタケシマランの3種あるが、福島県ではこのうちヒメタケシマランを除く2種類の植生が確認されている。オオバタケシマランは葉が大型で茎を抱き、花柄の途中に関節があり、そこからねじれており、果実は楕円形である。オオバタケシマランは吾妻・安達太良山域では西吾妻山域にのみ分布する。
 タケシマランの属名はねじれた足と言う意味で花柄の形状に由来すると言う。


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