吾妻・安達太良花紀行38 佐藤 守

サンショウ(Zanthoxylum piperitum ミカン科サンショウ属

 

雌花 雄花

カスミザクラ-コナラ林からミズナラ林にかけての林床に生育する落葉潅木。吾妻・安達太良山域で植生が確認されているミカン科の植物はキハダ、コクサギ、ツルシキミと本種(イヌサンショウも含める)の4種類しかない。

葉は互生で奇数羽状複葉である。葉柄の基部に1対の刺が対生して着く。小葉は長楕円形で、先端はやや窪み、葉縁には鋸歯がある。葉には芳香成分を蓄えた油点があるため葉を擦ると芳香を放つ。

雌雄異株であり、食用とする部分で雌株は実サンショウ、雄株は花サンショウと呼ばれる。開花期はGW後半の5月初旬頃で展葉し終えた葉の葉腋に複総状花序を着生する。小花は花弁が無く、がく片と雄しべまたは雌しべだけで構成される。雄しべは5個、雌しべは通常2個着く。雄しべの葯の色はやや緑がかった黄色で、開葯すると黄色が濃くなる。雌しべは2個あるので、果実も1小花あたり2個の分果を結実する。果実は熟すと果皮が赤くなり、やがて果皮が裂開して種子を散布する。裂開した果実を指してハジカミと言う。種子は黒く光沢がある。刺がなく大型の果穂を着生する変異種が選抜されブドウサンショウとして栽培されている。

サンショウは森の散策を始めた頃にいち早く覚えた樹で、その当時は花が咲くとは思いもよらず、葉から放たれる香りに満足していた。偶然に花を着けた雄株に出会った時は新発見したようで嬉しかった。知識がついて刺が互生で分果が3個のイヌザンショウも識別できるようになり、果実を着けた雌株にも出会ったが、雌株の花はなかなか見られなかった。これは多分に掘り取りにより残存個体数が少ないことによると思われる。2008年の春に初めて開花中の株に出会った。新葉と雌花の緑の配色が絶妙でサンショウは花も十分観賞に値することを実感した。

アズマイチゲ(Anemone raddeanaキンポウゲ科イチリンソウ属)

落葉樹林の明るく、やや湿った林縁や沢筋に生育する多年草。

葉は根生葉のみで、花が咲いた後から生長する。長い葉柄を持つ2回3出複葉である。小葉は狭倒卵形で側面は滑らかで、先端は円頭〜鈍頭状であるが裂刻状の鋸歯がある。

花は根茎の先端から花柄を伸ばしその先に大型の花冠を着生する。花弁は無く、大型のがく片が花弁状に展開する。がく片の数は12枚前後で開花初期はがく片の裏側が淡い紫色を帯びる。ラッパ状の花の底部には明るい緑色の子房が鎮座し、その表面には白い柱頭を着けた多数の雌しべが散らばる。更に多数の雄しべが子房の周りを囲み込む。花冠の基部には3枚の大型の総包葉が着生している。総包葉は葉柄があり1回3出複葉である。開花期は4月初旬で晴天日の陽だまりの温度が上がった頃に開花する。日差しを好み、日が陰ったり寒くなると花は閉じてしまう。開花すると3枚の垂れ下がった総包葉と空に向かって広げた花のバランスが絶妙で印象的である。花が大型のためか同じ仲間のキクザキイチゲに比べて花の寿命は短いようである。

図鑑類ではスプリングエフェメラルの代表種と紹介されることも多いが、吾妻・安達太良山域ではキクザキイチゲはよく見られるが、アズマイチゲは確認したことがなかった。それが、2006年の春に河川敷の護岸工事で川辺林が伐採し尽くされた道路脇でアズマイチゲの小群落に遭遇した。以来、春になるとその場所に通い続けているが重機でいつ削り取られてもおかしくない状況である。1987年版の福島県植物誌によると植生は普通と評価されているのだが、吾妻・安達太良山域ではほとんど絶滅種である。その主たる原因は山野草としての盗掘に加え、ほ場整備や護岸工事と称する自生地の破壊によるものではないかと考えている。


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