森の素敵な仲間たち 野鳥シリーズ VOL.9 高橋 淳一

吾妻や安達太良の山肌にも残雪が見られるのは極僅かになった。日に日に深みを増す周辺の森からも、力強い命の息吹を感じられる。一方、梅雨入りのニュースが流れても、雨の降らない日が続いている。高山(たかやま)を水源とする荒川の流れも中流域では枯れてしまった。夏鳥達を迎えた豊かな森ではいつもと変らぬ美しい鳴声が響きわたっているが、地球的規模の気候変動が着実に進行しているのであろうか。

キビタキ(黄鶲)スズメ目ヒタキ科ヒタキ亜科(夏鳥)

福島県民にとって、「県の鳥」に指定され、県のシンボルキャラクター「キビタン」のモデルにもなっているこの鳥の名前は、スズメやカラスと同じくらいお馴染みである。しかし、森全体が新緑に包まれるころに南方より渡ってくることから、その姿を見つけることは容易ではない。スズメより一周りほど小さく、胸から腹部にかけてと、腰部に鮮やかな黄色の羽毛を持ち、黒色の尾羽や白斑の入った翼との色合いは宝石のように美しい。また、「ホイヒーロ」、「ピツ、ピツ、クルル」と変化に富んだ音を奏でる囀りも、魅力的である。

わたしにとっての初めて出会いもそんな魅力的な囀りにつられ、視線を向けた際の偶然であったが、その色彩に鮮烈な印象を受けたことを記憶している。また、付近には、うす茶色の雌が周辺を飛び廻っていたが、これは繁殖期での行動と肯けた。しかし不思議なことに、このカップルに付き添うようにオオルリの雄が離れないでいたことが今でも忘れられない。

 

(原図 成美堂出版・野鳥観察図鑑)

ホオジロ(頬白)スズメ目ホオジロ科(留鳥)

 動物や植物の名前は学名(万国共通)和名(日本国内共通)地方名(地方独自)の概ね3種類が国内では使用されている。その中で、この鳥は和名(頬白)が特徴を端的に表現しているももの1つである。鳥にとっての頬は眼の下になるが、ここが白く、眼の後部は耳羽といい、黒い。さらに全体的には茶褐色で尾羽の両外側が白いことも特徴的である。また、大きさはスズメよりやや大きい。チチッ、チチッという地鳴は若葉のころから囀りにかわり、初夏のころには高原の低木の梢や河原のススキの先端で盛んに囀るようになる。

古くから愛好者も多く、美しい鳴声は「一筆啓上つかまつり候」「源平つつじ白つつじ」等様々な言葉で表現されていた。また、かつては多くが捕獲されたと聞く。これは、ペットとしての対象に留まらず、農山村においては食料として貴重な蛋白源であったらしい。これは、農山村に多くあった桑畑や萱畑が冬場の生息地であるとともに、群れをなす習性が捕獲する上で効率的であったからと祖父に聞かされた。

 

 

(原図 成美堂出版・野鳥観察図鑑)


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