森の素敵な仲間たち 野鳥シリーズ VOL.8 高橋淳一

 

 今年の春は、冬の大雪の反動なのか、連日、好天が続いている。4月に入ってから2ケ月あまり、雨の日は数えるほどしかない。気象台によると、福島の4月の降水量は1mmにも満たない記録的な状況であるという。こんな好天の影響か、春はかけ足で通り過ぎ、野原には、初夏を思わせるカッコウやオオヨシキリの鳴声が響いている。一方、残雪豊富な奥山の森では、今が、春本番である。木々の緑は日に日に深みを増し、多くの命を守り育むかのように樹冠は上空を覆い、全体を包み込もうとしている。やがて帰って来る夏鳥たちを待ちわびるように!

 

 

ヤマセミ(山翡翠)(山魚狗)ブッポウソウ目 カワセミ科  留鳥

 森に暮らす鳥たちの多くは、木の実や昆虫が主な食料であり、これらの食習性が森の生態系を維持する上で重要な要因の一つであることは、古くからよく知られている。(益鳥等という表現はその名残)しかし、様々な樹種、樹齢の混在する原生林などの健全な森以外では、特定昆虫等により、広範囲な「食害?」を目にするようになった。これは、野鳥たちの営巣に適さない単一化された樹種、樹齢の森が広がってしまったことも原因であるが(大気汚染による樹勢の衰退も報告されている)、これだけに留まらず、かつて清やかで、安定した水量を維持していた渓流にも少なからず影響を及ぼしている。この渓流を主な生活の場にしているのが、頭部に冠羽と呼ばれる特徴的な羽毛をもち、白と黒の斑模様の美しいヤマセミである。最近は渓流のシンボルとして雑誌やテレビで頻繁に紹介されるようになったが、登山者にとっては意外に馴染みの薄い鳥である。水面に伸びる枝から水中にダイビングし、小魚を採るシーンは渓流の小さなハンターと呼ぶにふさわしいが、意外やハトより一回りほど大きい。
 私がこの鳥と初めて出会ったのは20数年前にもなるが、奥山の渓流でじっと水面を見つめる姿に凛々しさを感じたことを鮮明に覚えている。しかし、最近では、人里近くの水辺でも見かけるようになった。これには、森林の荒廃による渓流の変化やアウトドアブームによる渓流釣り客の増加が影響しているのではないだろうか。

オオルリ(大瑠璃)スズメ目 ヒタキ科 夏鳥

「青い鳥」は童話や唄にも度々登場して来るが、この鳥はまさに主役にふさわしい容姿と美声の持ち主である。スズメより僅かに大きく、雄は頭部から背、尾羽にかけて名前通りの鮮やかな瑠璃色に輝き、胸から腹部にかけての白色とのコントラストが実に美しい。また、高木の梢にとまり、誇らしげに奏でる囀りもすばらしいの一語に尽きる。ウグイス、コマドリとともに「三名鳥」に数えられるのが、なるほどとうなずける。
 
しかし、このような人間の価値基準からの評価がこの鳥にとっての悲運でもある。過去において飼鳥として捕獲されたことは、言うまでもなく、幼少の頃には近所でも飼っていた人がいた。しかも長期の飼育はなかなか難しいと聞いたことがあった。さらに、愛鳥活動や鳥獣保護が進んだ現代においても、密漁や売買の対象になっているという。越冬地としてのインドシナ半島やボルネオ島などの森林破壊が深刻な状況となっているのに加え、繁殖地の日本でも、残念ながら「青い鳥」にとって安住の地での生活とはいかないのである。
(原図 小学館・野鳥図鑑)


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