森の素敵な仲間たち 野鳥シリーズ VOL.4 高橋 淳一

野山の緑が日に日に深みを増し、多くの命で満ち溢れる初夏の頃、東南アジアなど南方より渡って来た夏鳥たちの美しい鳴き声が響き渡るようになる。渓流沿いでは鳴き声が涼しさを一層引き立てているし、深い森の中で登山者の不安と緊張を和らげてくれる。また夏鳥たちの中には赤や青、黄色と鮮かな色彩の羽毛を持つ種類も多く、その容姿は「森のアイドル」と呼ぶにふさわしい。 

一方、この時期、かれらの主な生息場所である広葉樹の森に、奥山まで開設された林道を利用した素人山菜屋の爆竹や携帯ラジオの騒音が鳴り響くように成ってしまったことは残念である。 今回はそんな夏鳥たちの中でも、特徴的な習性を持ち身近な存在であるカッコウの仲間「ツツドリ」そして美声の持ち主であり、鳴き声の聞き分けが比較的容易な「コルリ」を紹介する。

ツツドリ(筒鳥) ホトトギス目 ホトトギス科 「夏鳥」

例年6月も半ばを過ぎると、梅雨も本格化し、うっとうしい日々が続くようになるが、今年は比較的雨が少ないようだ。通勤途中の阿武隈川の岸辺では、ようやく終了した河川工事を待ちわびたようにオオヨシキリの忙しない声とともにカッコウのノスタルジックな鳴き声が聞かれるようになったが、時を同じくし、カッコウの仲間ツツドリも薄暗いブナ林の中、しとしと降る雨の日にポポ、ポポ、ポポと低音の鳴き声を発している。体長は30数cmでカッコウより僅かに小さいが、腹部の黒横斑が太い。しかしこれらの外見より見分けることはなかなか難しい。

ところでツツドリという名前の由来だが、ポポと連続する鳴き声が筒を叩いているように聞こえたためと言われているが、人影の少ない森の中で聞けば「なるほど」と肯ける。またツツドリをはじめとするカッコウの仲間たちは、他の鳥たちの巣に卵を産み付け、子育てをしてもらう「托卵」という習性を持つことがよく知られている。ちなみにカッコウはモズ・オオヨシキリ、ツツドリはウグイス、メジロなどに托卵する。そして同じ仲間のホトトギスは、時に、あの小さな鳥ミソサザイを対象にしてしまうと聞くが、自分の倍以上もある巣立ち前の幼鳥に給餌して姿を想像すると少しばかり心配になる。

コルリ(小瑠璃) スズメ目 ヒタキ科 「夏鳥」

多くの夏鳥がそうであるように、色彩豊かで美しい鳴き声を奏でるのはたいてい雄である。体長14cm程のこの鳥も、白い腹部を除けば頭部から尾羽にかけて淡い青色の羽毛を持つのは雄で、雌はオリーブ褐色と目立たない。ただし、ヒタキ科の中では比較的足が長く水平な姿勢でとまることができるのは雌雄を問わず共通の特徴である。

主に亜高山帯で繁殖していると言われるが、私自身はブナ林でこの鳥の鳴き声を聞くことが多く、先月末に訪れた山形県の摩耶山でもチッチッチッ…と序序に大きくなる前奏のあとに、「馬のいななき」のようなコマドリに似たさえずりを大きなブナの枝先から披露してくれた。また何種類もの複雑なさえずりは、じっと聞き入っていても飽きさせることは無かった。
 さて、この小瑠璃(コルリ)だが、光沢のある瑠璃色が美しい同じヒタキ科の大瑠璃(オオルリ)に比べ、見劣りする淡い色合いにより名付けられたものと思うが、「声良し、姿良し」とコマドリ、ウグイスなどとともに三名鳥に数えられ、密猟の対象とされるオオルリの悲運を思えば、幸いだったのかも知れない。

(原図 小学館・野鳥図鑑)


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