森の素敵な仲間たち 野鳥シリーズ VOL.3 高橋 淳一

暖冬に慣れてしまった中で、今年の冬は異常に暖かだった1月を除けば、久しぶりに
「冬らしさ」を実感できたのではないか。2月中旬には猪苗代湖の湖岸も数百メートルにわたり、何年か振りで結氷したと聞いたが、3月も半ばを過ぎ、序々に春の気配を感じるようになった。日当たりのよい道端ではマンサクの花がほころび始め、谷川の水音もどことなく力強さが増したような気がする。
 そんな春の訪れを待ちわびていたかのように、雪解けが進む渓流で真先に元気な姿を見せてくれるのがミソサザイやカワガラス、キセキレイなどの水辺を好む鳥だちである。その敏捷な動きや体に似合わず大きく澄んだ鳴き声は、奥山の森に春を告げる妖精のようでもある。

ミソサザイ(鷦鷯) スズメ目 ミソサザイ科 「留鳥」

 ブナ、ミズナラなど広葉樹の森を流れる渓流に雪解けが進み、地肌が見え始める頃、高音でしかも大きな鳴き声が響きわたるようになる。鳴き声の主は、褐色で丸い体に黒い横斑や灰白色の斑点が混じる体長10cmほどのとても小さな鳥、ミソサザイである。苔むした岩にとまり尾羽をツンと立て、くちばしを大きく開いて囀る様子は、一生懸命のようで愛らしく、けなげに見える。渓流沿いの森に縄張りを持ち繁殖しているが、雌へ求愛行動以外に縄張りを他の個体へ誇示することも含め、大きな鳴き声を出すらしい。
 一方、真冬に低山や人里に下りている場合の地鳴きは想像できないほど地味でウグイスと同じようなチャッチャッという声である。しかし、この地鳴きが聞かれた人里の中小河川の多くは、3面コンクリートで固められた水路に改修されてしまい、山間の村や心有る人々によって保護された極一部でしか聞かれなくなった。
 かつては、自宅裏の2メートルほどの小川でも見ることができたこの鳥をもう一度呼び戻してみたいと思うのは過去への郷愁だけではない。

カワガラス(河烏) スズメ目 カワガラス科 「留鳥」

 水芭蕉の群生地として知られる仁田沼周辺には、今でもミズナラやカエデなどの雑木林が多く残されている。それらの雑木林に育まれ、水芭蕉とともに見頃となるカタクリ、キクザキイチゲなどの可憐な草花は多くのハイカーの目を楽しませてくれるが、ハイカーの少ない平日はこれらの草花のほかに、多くの野鳥たちが出迎えてくれる。
 その日も、4月半ばの人影の少ない平日の早朝だった。朝露に輝く花々をカメラに収め、ふと「思いの滝」に立寄った際のこと。勢いよく段差を下る水流の水煙と轟音の中、滝壷周辺の岸辺で活発に動き廻るムクドリ大で全身褐色の鳥に出会った。こちらの様子を気にすることもなく小石の廻りをつついたり、時には水の中に潜ったりしているのである。体の色彩、身のこなしは時代劇の忍者を彷彿させるようである。やがてそこに腹部が黄色い一羽のキセキレイがやってきた。と途端に縄張りを侵害されたのか、追い払いにかかったのである。しかしキセキレイも易々とは追い払われることはなく、いたちごっこをしていた。私は、そんな光景を飽きもせずに、一時間も眺めていたが、その鳥がカワガラスだと知ったのは、何年か後に偶然見たテレビのブラウン管からであった。

(原図 小学館・野鳥図鑑)


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