第21回東北自然保護の集い・鰺ヶ沢大会報告

期日:2000.10.14〜10.15 場所:青森県鰺ヶ沢町 日本海拠点館

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●基調講演:哲学者 内山 節「21世紀の展望−自然と人間、その現状と行方−

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−21世紀を考える

百年を考えること、予測することは不可能。経済や技術の予測は困難だが、子供や孫が生きていく人間と自然という視点からは、予測ができるのではないか。一方、20世紀のほとんどは、破壊を繰り返してきた。世紀末になって、その過ちに気付く。未来は「過去」の読み直しの中からしか、見えてこない。未来とは予測の問題ではなく、未来への関わり方の問題

−自然と人間

例えば「猿、鹿、猪」が畑を荒らす問題は、害獣であるが回りまわって人間の問題でもある。神の遣いでもある。自然があるから人間がある。自然は人間に、いい作用もするが、不都合もある。自分の地域の自然と違う地域の自然(交換可能な自然)=>自然を委ねる。白神と屋久島の自然を守ればいいのではなく、自分の地域の自然を守ることが大切。

−管理する自然から総有する自然

「世界遺産」という言葉は矛盾に満ちている。世界の自然をどのように管理していくのかということは世界を支配することと同じ。「自然保護」という言葉で管理・支配することになり兼ねない。すべてのモノを交換可能なモノにしてしまったら大変だ。一人一人の人間は、消費者であり生産者であり、個人ではないのが、現代経済だ。近代国家が出来て自治を失った。人間は誇りを失い、森は国家のモノになってしまった。独立した村や町であれば、我村、我町の自然を収めることは当たり前。それぞれの地域がかけがえのない地域であること。そうでなければ「交換の可能な地域」になってしまう。「かけがえのない」とは「唯一無二のもの」:自然をかけがえのないモノにするのは、その地域、村である。濃密な関係を持ち続けることが可能。来年群馬県で第17回「文化の国体」が開催される。彼は総合プロデューサー。そのコンセプトは@誰でも参加A建物は建てないB手作りとする(業者に発注しない)村とは人間の集合体ばかりでなく、自然を含めたのが村だ。村の森を守る、都会の人と共に守ることを考える時期だ。:総有関係

−21世紀の自然

20世紀は「ひとつの秩序に統合する」ことに努力した。結果として自然は破壊され、21世紀は、そのような考え方を打ち破る。


シンポジウム「21世紀−白神と東北ブナ林の未来」

出席者:吉田正人(日本自然保護協会)、鬼頭秀一(東京農大教授)、奥村清明(秋田自然保護連合)吉川隆(赤石川を守る会)、内山節(哲学者)、村田孝嗣(コーディネーター)

村田:前の山形・秋田の2回の集会を経て、今回は議論を深めて、方向性を出したい。

内山:人間の関わりを絶った使えない文化財は承服できない。モヌケノ空では意味がない。人との関わりを持って初めて文化だ。人を排除したやりかたには賛成し兼ねる。
吉田:1985年のブナシンポジュームでは「ブナ帯文化」がテーマであった。白神のブナが守られたのも全国的に「ブナ原生林の価値」が認められたことによる。世界遺産に指定された以前は保護協会は「何らかの規制が必要」とコメントした。しかし時代は変わりつつある。国際自然保護連合の話し合いでは、広い視野で、繋がりを持って保護を考える。聖なる土地から人が住んでいる広い空間で考える、が世界の流れ。自然と人間と文化(MMCアプローチ)とを一体で考えることが、自然である。

鬼頭:聖域(サンクチュアリ)といった自然を囲い込んで保護するという考えは確かにあった。今の時代は自然と人間の関わりの中で保護することが必要だ。MAB計画のように、ゾーニングで決めることでは無いだろう。入山禁止の代用でお金で解決すれば、村の文化は失われてしまう。田舎の方は素直で「お上」の話はそれに従ってしまうが、それが文化の喪失につながる。入山規制がいいなら、それを決めるプロセスに全員が参加しなければならない。今の行政機構は「お上が決める」(パターンナリズム)がほとんど。この白神もそうだ。ここに今の混乱がある。
奥村:反対運動の先頭を走っていた人は何らかの形で「血」を流していた。自分のフィールドを失った者(青森)とそうでないモノ(秋田)の違いがあったように思う。入山規制の中に「一切人を入れない」という一文があったことは事実。世界遺産指定時に秋田県側で開かれた公聴会では「全員が入山規制」に対して反対は無かった。秋田県側の規制は、意見合意が出てくれば、変更してもいいだろう。栗駒山は、コアに登山道があり人が入ることに違和感がない。白神入山規制に対しては、青森のような熱い思いはない。
吉川:地元が入れない入山規制は止めたい。従来の通り自由に山に入りたい。地域住民の意思を反映する場がない。白神で生活に利用して恩恵を受けていた住民に対しての権利や管理の姿を議論して欲しい。いつも議論が出てこない。奥赤石林道は自由に走りたい。(今は閉ざされている)
鬼頭:地域の人たちに敬意を持って、地域の人々の関わり方を考える。地域の人を外しての議論はありえない。しかも地元から、その答えを出していく必要がある。
奥村:林野庁の森林生態系保護地域の管理計画が、世界遺産のベースになっている。我々自然保護団体がそれを変えるのであれば、林野庁との交渉となるだろう。貴重なブナ林を保護するには入山はどうあるべきか、という視点での議論が必要。しかし秋田県側での議論は必要ないだろう。

村田:入山の規制と緩和という対立で考えるのではなく、モニタリングが必要だと言っていた。
鬼頭:保護団体で大きな差があるとは思えない。今後、林野庁主導ではなく、自然保護団体主導で進められるだろう。入山規制は自分で決めることが大事。青秋林道の車両規制などを具体的に考え、提言すべきだ。

奥村:共同歩調を取ることはやぶさかでない。共通なテーマはあるが、入山規制に対してはここ2〜3年は考えない。
弁護士:規制は外すべきだろう。しかし林道規制が条件だ。地元の権利に対しては、その範囲は昔に戻る(林道開削以前)ことが必要。権利は川の流域単位で考える必要がある。

村田:白神では、広く、色々な人が自然に触れられること、素晴らしさを共有できることを権利と考えたい。建設的な意見が多く出されたことに感謝。コアの外も含めて考えたい。今後、行政を含めて大いに討論が必要であると考える。

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●第2分科会「自然の保護と管理」

(世界遺産地域の管理計画と入山規制、森林生態系保護地域)

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座長:鬼頭秀一(話題提供)岡島成行(青森大学教授)、村田孝嗣、吉川隆

保護団体が共同歩調を取るための第一歩にしたい。・自然・人間・文化を一つに考えた管理計画を考えていきたい。この分科会では、大筋な方向性を確認できればと思う。
牧田:昨日の大会で吉川さんの生活を脅かしている実態は、むしろ外からやってくる人たちを排除することが必要ではないか?赤石林道の閉鎖問題は、管理範囲の外の問題で、分けて考えるテーマ。現在の吉川さんの守るべき文化は、産業革命以前に行われた文化。今は異なる時代で、規制して文化・遺産を守ることも必要ではないか。規制と文化維持は相反するテーマだ。

鬼頭:上から規制するのではなく、話合いで解決を探るべきだ。
庄司:白神問題の解決の原動力は「地元住民の力」だった。現在の林野庁に森を管理する能力も資格も無い。むりろ食いつぶしてきた放蕩息子だ。森を潰したのは、地域住民ではなく営林署だ。弘青林道を県道にし、赤石橋を立派な2車線にして観光道路の伏線だ。一方、住民である農民・林業・漁民の生活は苦しくなる一方。周辺自治体は白神を食い物にしている。弘青林道を止めることを考えるべきだ。
鬼頭:自然保護団体からありかたを積極的に提案していくべきだ。一方で客を寄せ、一方でコアへの規制を行う。周辺部分を含めて考えるべきだろう。生活者である吉川さんはどうですか?
吉川:世界遺産の枠で白神を考えていない。いつでも、どこでも入れ、何でも採れる白神。洪水で全滅した経験から水に対しては警戒心が強い。大雨の時などは、上流を見に行くことが必要だが、今はそれも出来ない。私の生活は白神だけではなく、農業や鮎釣りなどだ。よそ者が入って来る問題は、現実には経験が無いと難しいだろう。
村田:白神では何が問題なのかを考えてみると、多くの人々と関わりを持っていくことが大事。思考のアプローチの違いで、異なった意見・対立構図が生まれた。「9つの提案」は「白神を守るため」ではなく、「共に生きるために」という視点である。世界遺産になって、現状に即した考えが欠けていたのではないか。入会権や共用林野制度の検討がなされないまま、入山規制が行われた。ゲート問題も地元住民の意見を吸い上げる思考が無かった。(乱暴だった)保護と活用の両面から意見をオープンに議論すべきだ。世界遺産の外側も含めて考えたい。モニタリングとは、どこにどれだけ入って、どの程度荒れ始めているのか等の行為だ。入山許可制度から入山届へ、モニタリングのためのルート指定は、機能していないので止めること等の9項目を提案した。

鬼頭:全く規制か自由かという提案では無いことは分かった。
奥村:吉川さんの言う、林道アプローチ・アクセスを止めるという発想は秋田県側でも議論されているが、それは難しいというのが結論。(藤里町)これは意見を聞きたい。管理計画については、あらゆる階層の意見を聞いて決めた積もりだ。2〜3年後、地元住民を入れて検討するために自然保護団体の意見を統一するべきだ。

鬼頭:懇話会で林野庁主導でやったことはやったが、地元住民の意見を反映したかは疑問。
岡島:皆の意見は、皆もっともだ。意見は「運用」で何とかなると思った。「9つの提案」は基本的には賛成だ。問題がこれだけ大きいので2〜3年を待つ必要はないだろう。人間の性悪説か性善説に立つかで、結果は同じだが「最初に規制ありき」は反対だ。これからの日本は市民が行政を動かす時代だ。林野庁の仕事は市民がある時代も将来来るだろう。役所はやりきれないから「入るな」という。規制ありきで出発してはいけない。地元から「入山規制」の声が上がれば、それでいい。管理計画は、山の現状を知っている人が決めたとは思えない。現実に、実際に山に入っている人の意見を反映すべき。2〜3年を待たないで、急ぐべき項目は急ぐことだ。実施の運用には2〜3年かかるだろう。白神に入って、白神の良さを伝えて欲しい。経験と体力のある人だけが入ることができる山にした。山のガイド等は市民団体が運用の主体になるべきだ。

奥村:6つの採択事項で、いいだろう。

庄司:2〜3年待つことなく、即実行すべきだ。
鬼頭:今から動いても2〜3年かかるので、動こう。個別の問題を個別に解決していかないと、全体総論での解決は時間がかかるだろう。
奥村:秋田側の「入山遠慮」に関しては今答えを出せないが、議論をするのはやぶさかではない。白神は観光で生きている自治体もある。多くの団体を説得する理論とデータが必要だ。だから2〜3年かかるのだ。
吉川:入山遠慮の秋田側から青森に入って岩魚を釣る、山菜を採る奴を締め出して欲しい。それをやらないで、2〜3年待てはない。今すぐやって欲しい。

鬼頭:とにかく、すぐに取組んでいくことを確認事項としたい。

村田:急ぐべきテーマは急ぐべきだ。例えば青秋林道の閉鎖や赤石林道ゲートの移動などは直ぐに動くべきだ。

意見:よそ者を排除があってはならない。自然の大切さを教える、これが自然保護団体の活動。
大森:無理に統一しなくてもいいのではないか。

意見:原生林の無い日本の、規制はあってはならない。「過去を訪ねる」ことは大切だ。
鬼頭:分科会をまとめると、規制の今のやりかた、手続き上での不具合があった。結果的に2〜3年かかるが、作業を開始することは合意できたと思う。規制と自由を大上段に構えるのではなく、周辺を含めた議論の出発点としたい。今後の白神を考える上では、白神マスツーリズムではなく、エコツーリズムに導くことが重要だ。環境教育やここでの産業も考え、提言したい。地域をどうしていくか、地域作りも併せて考えていきたい。

牧田:自然保護団体でも「規制」と「自由」を入れた形を考えるべき

鬼頭:その通りだ

●大会宣言採択

1.自然を人間から隔離して保護するのではなく、保全利用しながら自然を大切にする心を培うよう提言する。

2.自然と地域社会との関わりを修復し、自然と共に生きる地域社会を構築するための努力をすること。

3.海、川、森を一つの系としてとらえた自然の復元に努めること。
4.特定地域の自然保存にこだわらず、住宅地から山岳・森林地域まで、連続する一つの生活環境として保全をめざすこと。

5.公共工事を、公共の福祉と環境保全の観点から見つめ直し、建設な提言をすること。


●大会決議「白神2000プラン」

1.世界遺産地域を含め白神山地全体を見通した管理計画とし、自然・人間・文化を一つに考えた管理計画にすること。
2.世界遺産地域の管理について行政側の組織だけで検討するのではなく、地域住民や自然保護団体など、白神山地の自然に実際に関わってきた人たちを加えた話合いによって進めること。
3.地域住民が持っていた入会権は速やかに回復させ、入会の障害となっている奥赤石林道ゲートは現在の位置から、ダム管理道路と奥赤石林道の分岐点に移設すること。
4.世界遺産地域を保護するために、緩衝地域の周辺で伐採され、その後天然更新にゆだねられている地域の植物等による復元をはかること。
5.巡視員制度から、レンジャーを養成し、それに代わるとともに、入山者の多くの目でモニタリングする方法をつくること。
6.現状の入山許可申請制度を指導のゆき届くかたちの入山届出制にし、ビジターセンター等の施設を白神山地と訪問者の交流・学習の場となる拠点とすること。

(記録:奥田、編集:佐藤)

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