高山にスキー場を作らなくて良かった話     奥田 博

 1月4日に福島市民会館で行われた名刺交換会で、吉田市長や佐藤栄佐久知事も福島市の自然環境や吾妻山の自然保護について言及されており、このような会合で首長が啓蒙されるということに時代の変遷と今後の方向が明るくなったようで喜ばしく感じておりました。
  ところがその後、もっと嬉しい話がありました。12時30分から辰巳屋で開催された「福島地区6ロータリークラブ新年合同例会」で、佐藤知事についで来賓挨拶に立った吉田市長が開口一番、次のように述べた。

  私は市長として長年いろいろな事業をやってきたが、一つだけ『やらなくて良かった』ことがある。2期目のころ福島市を365日型観光都市を目指し、高山に一大スキー場を建設すれば飯坂も土湯も岳温泉も潤い、福島市を中心とした一年中の観光がなりたち、ひいては福島市の活性化におおいに役に立つとの構想でありました。これを熱心に支援する団体もおり3期目も主張してまいりましたが、ある自然保護団体の反対意見などもあり、これを断念しました。いま、あのきらきらと輝く高山を見るにつけ、あそこに傷をつけようとした自分が恥ずかしい、手を合わせて謝っている。なぜあの当時そこまでの考えが及ばなかったのか反省している。これがやらなくて良かった事であります。年頭にあたりこれをもって私の挨拶とさせていただきます。」
 
これは当日、会に出席していた「高山の原生林を守る会」会員からのメールでした。本当に吉田市長は素直な感想を述べてくれたと思います。現在、スキー場経営は窮地に追込まれている。特に近年開発されたスキー場は、広大なエリアに加え、大規模な設備を持っている。それが自然破壊につながったわけであるが、また財政破壊でもあったのだ。
 福島県の磐梯山・安達太良山・吾妻連峰周辺にはスキー場が目白押しである。その中でも特に目立つのが磐梯山周辺である。猫魔ヶ岳から磐梯山にかけては、猪苗代スキー場、磐梯国際スキー場、裏磐梯スキー場、リステル猪苗代スキー場、ネコマスキー場、磐梯アルツスキー場と6個所のスキー場がヒシメイテいる。
 特に近年開発されたスキー場は大規模で、自然破壊度が大きい。その見本が猫魔ヶ岳の尾根を挟んで南北に開発されたネコマスキー場と磐梯アルツスキー場である。丁度バブル絶頂期に完成したため、他のスキー場よりも数倍規模が大きいのである。それだけ、多くのブナの森が失われた。それら大きな犠牲の上でスキー場が造成された訳が、このアルツスキー場は300億円もの負債を抱えて経営が厳しい。大規模開発の付けが回ったのであるが、この第3セクターが倒産でもすれば、残されるのは大面積で伐採されたブナの森の犠牲である。
 高山スキー場も国土開発(西武)と福島市との第3セクター経営の予定であった。第3セクターが赤字を出している事業は全国には多くあり、珍しくない風景になっている。最近では、宮崎市の「シーガイヤ」が倒産している。赤字は結果として税金を投入され、住民は長い期間にわたり負債を抱えることになる。倒産したシーガイヤのお膝元の宮崎交通の故岩切社長は「世の中に必要なものなら、きっと世の中が拾い上げてくれるであろう。私どもは自分のしていることが、世の中に必要なことかどうか、つねに厳しく反省してみなければならない」といっていたという。
 「高山の原生林を守る会」はスキー場建設にストップをかけ、税金投入を避けさせたともいえる。今思えば、感謝されてもいいのではないだろうか。「高山の原生林を守る会」は88年福島市民18,150名のスキー場建設反対署名を集めた。今回の吉田市長の感想は、市民の感性は正しかったことを証明した。市民の感性を引き出すことが、市民運動の原点なのかも知れない。
 高山周辺を歩き豊かな自然を見るにつけ、本当にスキー場を造らなくて良かったと思う。現在「高山の原生林を守る会」は市民と共に自然観察会を楽しんでいる


カメノコテントウの独り言 荒れる森林雑感     

 「森が荒れてきている」と、最近よく耳(目)にします。書かれたものを読んでみると、スギなどの人工林の手入れがされていない、雑木林の下刈りがされなくなった、等々とあります。

 ふむふむ。よく山を歩いている方であればおなじみの光景を思い浮かべることでしょう。スギ植林地などでよく見られる、下刈り、枝打ち、間伐いずれも行われず、スギの樹間には広葉樹が進入し、クズなどが繁茂している、いわゆる「ヤブ」になっているというやつですね。でも、雑木林はどうなんでしょう。私はそれほど違和感はありません。ある程度年数が経って木も大きくなり、何となく「回復」していると思ってしまうのは私だけでしょうか。

 ということで、雑木林が「荒れている」と言われることには私は正直???なのです。みなさんはどう思いますか?

 ???に答えてくれそうなものがありました。中山周平さんという人が著している「雑木林ウォッチング」という本です。小学館から出ているのですが、これに「荒れていく林」という項目があって、「手入れされなくなった林では下草のアズマネザサが勢いを増し・・・笹が密生するとほかの下草は生きる環境を失い、姿を消してしまいます。・・・植物の種類も数も極端に少なくなってしまいます。」とあります。

 でもまたまた???。「笹が密生すると・・姿を消して・・植物の種類も数も極端に少なくなって・・」ってどうなんでしょうか。手入れされなくとも、やがて木が育って大きくなり、樹冠(森の天井)が閉じて林内が暗くなると笹は密生しないような気がする。ブナ林なんかは、南斜面の日当たりのいいところでギャップ(倒木などで森にできた空間)があるとチシマザサの繁茂がすごいけれども、樹木の密度のあるところでは結構まばらだったりする。まあ、その分暗くなって、林内の主な植物のパターンがある程度決まってしまい、「林床の低木はオオカメノキとオオバクロモジで・・・」なんて言ってるとたいがい当たってしまう(おっと、いけない)ことが多く、確かに多様性がすばらしいとはいえないかもしれないけれども。

 だから、手入れしない→ササが繁茂→植物の種類の極端な減少とはいえないんじゃないかというのが乏しい体験からの感想です。それに、別に多様性=善というわけでもないこともあるし、とっても疑問です。

 でも一つ考えられることは、中山周平さんは川崎市の出身で東京都の小学校長をされた方のようですから、フィールドは南関東と思われ、「雑木林」の状況が福島とは異なるのではないかということです。以前何かで武蔵野の雑木林のことを読んだ記憶があり、確か東京近辺はもともと常緑広葉樹林地帯なので、手入れを怠ると、カシやシイなどの暗い森に戻ってしまう。だから手入れが必要なんだ。というような内容でした。
 つまるところ、関東の雑木林って相当程度「人工林」のようで、本来の自然の状態に戻ることは「荒れる」と考えられているようですね。でも同じことが福島で通じるかについてはどうなんでしょう。何せ福島は気候的には落葉広葉樹林帯ですから。「荒れる」ってどういうことだ、とますます疑問が大きくなってくるこの頃です。 (カメノコテントウ) 

安達太良山麓の雑木林 高山山麓の雑木林

東北自然保護団体連絡会議 白神山地入山規制緩和を求める「白神プラン」を国に提出
文化・環境・林野庁に陳情−改定へ明るい感触

東北自然保護団体連絡会議は12月19日、世界遺産の白神山地の入山規制緩和などを求める6項目の要望を文化庁、環境庁、林野庁に提出した。要望書は、同会を代表して青森の自然を守る連絡会議会長代行の鹿内博県議が各庁を訪れ担当官に手渡した。日本自然保護協会の吉田正人保護部長が同行した。
 厳しい入山規制で住民を締め出すような形となっている管理計画について、鹿内、吉田の両氏は要望を終えた後「国は改訂することにやぶさかでない、という態度だ」と述べ、明るい感触を得たことを明らかにした。
 要望事項は十月に青森県鰺ヶ沢で開かれた「東北自然保護のつどい」で大会決議した6項目で@自然、人間、文化を一つに考えた管理計画にするA管理を行政組織だけでするのではなく、地域住民や自然保護団体を加えるB現行の入山許可制度を指導の行き届くかたちの届け出制にする−など。
 今回の要望内容については、三庁の出先機関と青森、秋田両県でつくる白神山地世界遺産地域連絡会議が検討することになるという。
 吉田部長は「オーストラリアのタスマニア世界自然遺産地域では十年に一回、管理計画を改定しており、その際に広く国民から意見を募集している」と話し、白神山地地域でも同様の方式を取るべきだと強調した。

(詳細は東北自然ネットをご覧ください URLは http://www.jomon.ne.jp/~misago/index.html)

 


編 集 後 記

■3月の上旬、新地町の鹿狼山へ登った。遊歩道的な登山道の整備はここ数年、各地の山々で目にし、慣れてしまったせいか、落胆することも少なくなった。しかし、山頂で遭遇した「登頂記念碑」には愕然とした。平成5年8月12日福島県知事佐藤栄佐久と刻まれた碑は当事者が望んだものとは到底思えないが、それを建立した関係者の時代認識、価値観には驚くばかりである。

鹿狼山頂の登頂記念碑

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