馬場谷地問題中間報告
 去る5月21日(日)、東北森林管理局置賜森林管理署において、「西吾妻の歩道整備に関するモニタリング調査中間報告の説明会」が開催された。説明会では「吾妻の森と緑のトラスト運動」の高橋敬一弁護士、「吾妻の自然研究会」金子満氏始め約20名の市民の出席があった。「高山の原生林を守る会」からは高橋代表と佐藤の2名が説明会に出席した。会議に先立ち、朝早く福島を出発して現地調査をした。ルートの大半はまだ残雪が2mほど残っており、実態を十分に把握できなかったが、伐採樹の撤去、ルートの誘導ロープ設置、植生回復モニタリング調査桝の設置、馬場谷地を迂回する新ルートの設定等を確認することができた。モニタリング調査結果は、登山道回復と湿原回復の2つに区分して説明された。
 登山道周辺の植生変化調査について(山形大学齋藤員郎教授)
 自然保護上の問題
1. ハイカーによる掘込み、拡幅個所のぬかるみ、段差の大きい階段を回避行為による周辺植生の破壊。
2. 切土、盛土による表土流出による植生回復遅延及び表面浸食の進行。
3. 重機誘導路跡地への登山者踏み入れによる植生回復能の欠如。
4. 大量の伐採枝条の堆積放置による植生回復遅延。
植生回復調査の方針と概要
1. この地域が自然植生域であることを考慮して移植や播種などの人為的な方策に拠ることなく二次遷移にゆだねた植生回復策とする。
2. 植生回復を記録し、損傷を受けた植生の再生を図るための自然環境の基礎資料として今後の保全に資する。
3. 10箇所を抽出しモニタリング調査。うち2箇所で、50cm四方の固定方形区を設定し、5cm四方の格子区分により、出現植生を記録。また3地点で5m四方の区画を4個連結した永久調査枠を設置。
4. 現在のところ、ササの侵入は見られない。再生植物はミヤマカンスゲのみ。カエデ、アカミノイヌツゲ等で切り株からの萌芽が認められる。
馬場谷地湿原の調査について(福島大学樫村利通名誉教授)
植生回復調査の方針と概要
1. 学術的な馬場谷地湿原の定義を明確にするため湿原を西湿原、北東湿原、中湿原、南湿原に区分して22箇所にエピゾロメーターを設置し、深さ25cmと50cmの地下水位(水圧)の変動を測定した。
2. 馬場谷地は分布境界型ブランケット湿原と定義される。これは日本では一般的な湿原である。丸太が埋設された歩道で地下水が集積している傾向が認められるが、工事の影響を明確にするまでには至らなかった。次年度は地下水のECとpHの測定も実施していきたい。これは水源を明らかにすることが目的である。
今回の説明会では、いくつかの問題点が浮き彫りになった。まず調査期間が短い上に、学術的調査に偏重しているきらいがある。特に湿原の地下水位調査では、丸太埋設されている個所が2箇所しか設定されていないのはどう考えても今回のモニタリングの目的に反している。本来ならば丸太埋設区に沿った地点を重点的に測定すべきではないか。また現地では森林管理局が設置したと思われるプレートが幾つかあるが、一般的な啓蒙プレートのみで今回の経緯を説明したものは皆無。事実を明らかにしたものがなければ登山者の協力は得られないだろう。中間報告書の議事録を見ると、今回の説明会は、高橋氏らの要請によるもので当初予定されていなかったこと。新ルートでは、展望を確保するための方策が当たり前のように討議されていることなど、今回の問題を発生させた主因について、まだ理解していない関係者がいるように思える。調査期間中は登山道を閉鎖し、この山域のブナ等の実生植栽や、湿原植生植物の採種・播種等による積極的な回復実験を部分的に展開することや調査期間の延長(最低10ヵ年)を考慮すべきではないだろうか。(文責 佐藤 守)

吾妻山を巡る話題
吾妻山サミットの報告
 「吾妻山の自然を未来に引き継ごう」そんな目的で吾妻山サミットが6月13日、福島市で開催されました。福島県が主催ということもあり、知事、市長と行政機関のトップが参加し、とりわけ知事は後半のデスカツションにもパネラーとして意見等を述べておりました。サミット全体の印象としては観光PR的要素が強く、今後の活動についてもトレッキングやコンサートそしてシンボルマークの公募など吾妻山の現状を的確に把握しているとは言いがたい内容ばかりです。そんな中、今後具体的活動を引継ぎ、推進する「ロマンチツクアズマ協議会」の二階堂会長の言われた、吾妻山ではは磐梯山周辺のようなスキー場開発はすべきで無いとの言葉が唯一の救いのように思えました。当会としても、今後その活動ぶりを注視していきたいと考えています。

高体連登山競技会のその後
 昨年の29号会報にて、報告した高体連登山競技会の赤ペンキ問題について、5月始めに関係者とお会い
した。昨年の問題提起を受け今回は赤布を購入しルート表示を行ない、大会終了後には回収するとのことでした。また生徒達に対しても自然保護教育を進めて行きたいとの前向きの回答があり、今後の展開を期待したいものです。
 ところで、このような心無い行為は高体連に限ったことではなく、社会常識やルールを充分理解しているはずの社会人山岳会の一部にも散見されております。具体的には高山登山道の広範囲(5m以上)な刈払いや国立公園特別保護地区へ無許可の山スキールート表示杭の設置等々、社会問題化する子供達の非行を映し出す鏡のような行為にはあきれるばかりです。子供達にも尊敬される大人として、規範を示すべく改善を願うところでもあります。なお、これに先立ち当会よりルート表示用ポール(赤布付き)を50本ほど贈呈したことを追記しておきます。

奥田 博 さん 「会津駒ケ岳・磐梯山」を出版
本会報で「東北のブナ紀行」を担当している奥田博さん執筆による山岳ガイドが岳人ポケットガイドとして出版された。タイトルは「会津駒ケ岳・磐梯山」であるが、飯豊連峰、吾妻連峰、那須連峰、飯森山を除く会津の山44山が紹介されている。「高山の原生林を守る会」会員ならではの山の生態系保護を重視した辛口のコラムは他の類書ではまずお目にかかれない。これからの登山のありかたを提起するガイドでもある。
発行:東京新聞出版局 価格:1100円 体裁:A5版変形 136頁

本


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