鹿狼山から  
29 〜被災地の今〜    小幡 仁子

2011年3月11日の東日本大震災から3年の年月が過ぎ、新地町では高台集団移転の造成地に家が建ち始めました。我が家の西側、田んぼを隔てた先にも10軒くらい同時に建築中です。この造成地は以前、広い畑でした。今年の作付けが最後かもしれませんが、建築中の家の側で野菜が育っています。ここには釣師浜方部の方々が越してくるようです。

私の知人も、看護師をしている長男が嫁さんを連れて今度帰って来ることになり、職場も近くに見つけ孫も生まれるし、あそこに家を建てることにした、近くになるからよろしくねと、笑顔で言っていました。彼女の家は、2階から眺める海の風景がとてもきれいでしたが、本当に海の側でした。それで、あの大津波で家屋すべてを流失したのですが、避難勧告に従って早めに避難したために命だけは助かったのでした。家を新築するとなればある程度まとまったお金も必要だし、借金もあるでしょうが、しっかりした息子さんがいて生活が再建できるのは恵まれたケースと思われました。

また、もう一人の知人は、1階部分に津波が押し寄せて住めなくなり、2年間は仮設暮らしでした。しかし、夫婦二人の生活で、子ども達は家を離れているし、多分戻ってこないだろうから家を直して住むことにしたと言っていました。海岸からはある程度離れているので、危険区域に指定されていないから、直して住むことが出来たのです。高台移転をしようかと悩んだが、将来的なことや経済的なことを考えて直すことに決めた、また今度地震が起きて津波が来ることになったら、すぐに逃げると言っていました。

それぞれの家庭で色々な事情があり、事情に合わせて住み所を決めたようです。家族や家、土地、財産、職、等々、それぞれに失ったものは大きいでしょうが、震災から3年が過ぎ、それぞれに決断して新しい生活を始めていることを感じました。

沿岸部の方では防災緑地の盛り土が進んでいます。昨年までは海のすぐ側まで行くことが出来ましたが、この工事のために立ち入り禁止になっていました。盛り土の土が足りないので、町では横浜市の公共事業で出た土を山元町と共同でもらう協定を結びました。以前も書きましたが、震災前ならば、違う土地から大量の土が入って来れば、この地方の生物の遺伝子や植生への影響を心配し、疑問を感じたかもしれません。しかし、今は防災緑地が早くできると良いなと思っています。町では、単にかさ高な防潮堤ではなく、防災機能を確保しながら地域の再生や美しい景観、豊かな自然の再生を考えて大きな森を作ることにしたのです。公園作りは一気に完成するものでなく、みんなで作り、育て、成長する公園を目指すということでした。国道からは海が丸見えで、やはりここに津波の勢いを押さえてくれるものがないことは不安です。防災緑地が出来れば、少しは安心できるでしょう。しかしながら、盛り土の山はまだ所々にあるだけで、ここが大きな森になるとは考えにくい状況です。まだまだ大量の土が必要なのだと思います。

 また、常磐高速の工事が急ピッチで進んでいます。大型機械の威力はすさまじく、あっという間に南北に幅広く山を切り開きました。12月には山元IC〜相馬ICが開通するということです。鹿狼山の麓に国道113号線につながる新地ICが出来ます。このICが出来たら、鹿狼山に桜やツツジを植えて名所にし、観光客を呼び込もうという案もあるようですが、それは止めてもらいたいものです。鹿狼山は昔からの里山ですから、人の手が入り、一部植栽されているものもあります。しかし、イヌブナ・モミを始め、コナラ・シデ類、その他この地方の気候にあった樹木や草花が沢山自生しています。四季折々に移りゆく自然の姿を沢山の人が楽しんでいます。このままの姿で次世代に残した方が良いのです。

 今、浜通りでは、沢山の大型トラックが土埃を上げて行き交っています。他県ナンバーの車もずいぶんあります。山を切り崩し、土砂を削り取り、右から左へと移動し、次々に盛り土をしたり道路を作ったりしているけれど、本当にこれでいいのか。自然を短期間に大きく変えていって、それで今後は大丈夫なものなのかと思います。誰か予報士のような人がいて、ここまでは大丈夫だけど、これ以上は駄目ですと、教えてもらいたいものですが、時が過ぎてみないと分からない事です(2014/06/15記)。

     
造成地に家が建ち始めた  防災緑地公園の盛り土が始まった  常磐道の工事が進んでいる 


 

国土強靭化法を知っていますか

1.国土強靭化法の正式名称は「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭強化基本法」で201312月に制定されました。

2.法律の目的 :法律の名前からすると、「防災・減災」などの災害対策のための法律の様な印象を受けますが、これに限らず、「国民生活」や「国民経済」などにも資する幅広い事業が対象となる目的となっています。

3.法律の「国土強靭化」の定義 :「事前防災及び減災その他迅速な復旧復興並びに国際競争力の向上に資する国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれのある大規模自然災害等に備えた国土の全域にわたる強靭な国づくり」と定義しています。事業の採択要件の概念が曖昧でどのようにも拡大解釈が可能な定義になっています。

4.事業の対象は防災・減災に関する事業だけなのか:国土強靭化法の目的には「国際競争力の向上」も含まれているので防災・減災に限らず、あらゆる事業を対象として進めることができます。

5.会議の公開性 :国土強靭化法では、会議の公開や、議事録の作成・公開を定めた規定はありません。重大な公共事業の推進について、検討内容が明かされないまま決定される可能性がある。

. 市民参加の保証:現行の公共事業の根拠法となっている国土形成計画法や、社会資本整備重点計画法で定められている国民の意見を反映させるためのパブリックコメントの規定がない。一般の国民には会議に関する情報などを公開せず、意見を反映することもないまま計画を策定することが可能な法律です。

7.決定権は:基本計画は推進本部が作成し、閣議決定のみで実施される。国会議決も不要。すなわち政府のやりたい放題の法律

(自然保護N0.538より抜粋しました)

国土強靭化法は既に飯豊山の麓を流れる最上小国川ダム建設問題に重大な影響を及ぼしています