桜貝から   鎌田 和子               

 

 

 

うるわしき桜貝

奇妙な動物

 クチベニガイ

 

「貝殻は、渚のタイムトラベラーではあるまいか。」これは、「おしゃべりな貝」という森口満氏の著書の中の言葉です。「一見、平凡に見える貝殻の中にも、数千年前の貝殻が混じっていることがある。」のだそうです。浜辺で、何気なく拾った貝殻が、大昔の貝の化石だって!?と驚き、興味をもって読み始めましたが、内容が学問的になって、難しくてついていけなくなりました。けれど、貝殻拾いがしたいという思いだけは失せませんでした。

それは、早春に、Mさんから届いたサクラガイの写メールゆえかもしれません。『うるわしき♪〜桜貝〜』が、一つどころか、こぼれ落ちそうなほどたくさん輝いていました! この貝は、Mさんの、鎌倉在住の友人が送ってくれた貝だそうで、その方の夫さんが、退職後、家のすぐ前の材木座海岸で拾い始め、今では貝のコレクションを趣味としていること、材木座海岸は日本でも有数の多種の貝殻が打ち上げられる海岸であることなど、今すぐ材木座海岸に行きたくなるような内容のメールでした。

Mさんが桜貝の写真(@)を送ってくれたのは、私の次兄の貝殻細工がきっかけでした。いわき市に住む私の次兄は、東日本大震災の前日に、貝殻拾いをしたそうです。翌日も行くつもりでいたとか。ところが、2011311日は、テレビの「国会中継」が面白くて、行くのをやめたのだそうです。命拾いした次兄は、自分は自民党に命を助けられたと真顔で言い、兄妹を笑わせていました。その貝殻で、「おかしな動物」を作ったと、今年の2月に私のもとに送ってくれたのです。ふふふ…その奇妙な動物(A)を、私は感性豊かなMさんに写メールしたのでした。

そういういきさつの末、7月の上旬、ようやく「貝殻拾い」に、憧れの材木座海岸へと出かけました。サラサラの砂浜で貝殻を拾えるものと思っていましたが、砂浜は黒くぬれて、期待の貝殻は見あたりません。がっかりしました。でも、目をこらすと、ぬれた砂に小さな貝殻が!…小指の爪くらいの小さな貝。つまむと、指先に砂と一緒にくっついたままです。レジ袋に入れようとしても落ちてくれません。「砂が指にくっついてイヤだ−」と、先ほどまで騒いでいた孫が、貝のかけらを拾っては、「すごいのがあったよ!」と見せに寄ってきます(B)。「海ちゃん、そんなかけらじゃなくて…」と言いかけてやめました。楽しみ方はそれぞれでいいのです。そうこうするうちに、クチベニガイ(C)を拾いました。クチベニガイを実際に拾ったのは初めてですが、貝殻図鑑で見ていたとおりに、内側が紅色にふちどられていました。名前が分かる貝殻に出会うと、がぜん元気が出ます。目が慣れてきたこともあって、砂から拾い上げる前に、形だけで「クチベニガイ!」と分かって愉しくなりました。これって、植物観察を始めた頃と同じかも!山道の落ち葉が全部同じように見えていたのが、それぞれの種によって、葉の形状が違うことに気づいた感動を思い出しました。砂浜の似たような貝殻だって、識別できるようになるかもしれない!不遜にもそんなことを思ったのでした。  (2012.9.11)

 
すごいのがあったよ?!

 

 

 

鹿狼山から  
22 〜被災地・二 度目の夏〜    小幡 仁子

毎年お盆の13日頃に、鹿狼山ではキツネノカミソリが満開になるので見に行きます。今年の夏はことさら暑く、さすがに鹿狼山を歩く人影はまばらでした。登山口のタマアジサイが大きく伸びて茂っていました。タマアジサイは鹿狼山が自生地の北限になるということです。樹木の本などを見ても福島県以西と書いてありますから、本当かもしれません。隣町宮城県山元町の深山は鹿狼山によく似ていますから、その周辺を確かめようとは思っていますが、暑い夏の低山歩きは蚊やブヨも多いし、鹿狼山以外は行く気がしないので、確かめるのもいつになるか分かりません。タマアジサイは蕾がしっかりした苞に包まれて玉状になっています。お人形のようにかわいい蕾を見つけました。この苞は裂けるように開花します。淡い紫色の両性花の周りに花弁が4枚の白色の装飾花が縁取ります。鹿狼山入り口のタマアジサイは人が並べて植栽したものでしょうが、薄暗い杉林の中にちらほら見えるのは、自生 なのでしょう。

登山道はイヌブナやコナラなどの緑陰が濃く、涼しさを感じました。頂上からはいつもの海が見えました。震災前は、この地は美しい海と山があり、自然豊かで住み心地抜群と、誇りに思っていましたが、今では海を見る度に複雑な思いがします。新地火力発電所の側にタンカー船が着いていました、オーストラリアから石炭が運ばれてきたのでしょう。今では震災前同様の発電をしていると聞きました。

あれから二度目の夏となり、遠くから見ると何事もなかったように穏やかな海ですが、海岸近くに行けば未だに堤防が壊れたままだし、至る所に傷跡が残っています。震災前、国道6号線の東側は田んぼや畑が青々と広がっていましたが、津波の被害により、今年も耕作されていません。塩害だけでなく、瓦礫の破片やら石が沢山入りこんでいて農業機械も入れないし、耕作できる状態ではないそうです。新地町は放射能の影響は余りなく、津波の来なかったところは普通に耕作しています。国道6号線を境にして、西と東では大きな差があります。

被災者支援事業で農地復旧の仕事をしている方の話を聞きました。その方は仮設住宅に住み70歳を過ぎたけれども身体は元気なので、できれば早く復旧して以前のように畑や田んぼを耕す暮らしをしたいと思っているそうです。しかし、耕作者の多くは高齢者で、これから先どれほど生きられるか分からないし、農機具を買ったり、塩害に遭った土地を耕すのは大変だから、もう農業はやらないと言う人も多いということでした。離農を考える人は、瓦礫撤去の仕事には出るが大した作業はせず、農地復旧は遅々として進まないのだそうです。同じ仕事をしていても、人それぞれの思いに温度差があるので、ストレスになるということでした。津波さえなかったら、額に汗して田んぼや畑を耕作し、平和な生活を送ることができたでしょうが・・・。仮設住宅に住むお年寄りは、なすべきことが何もないのが辛いとも聞きました。津波という自然災害の中で、人の運命は様々に変わり、今も流されているようです。

鹿狼山には四季折々に花が咲き、震災前と変わらぬ自然があります。涼やかなタマアジサイ、炎のようなキツネノカミソリ。もう少ししたら咲きそうなコバギボウシの花。ここを歩くと静かで穏やかな気持ちになれます。しかし、同じ町内でも海側に目を向ければ回復不可能と思われる荒れ地が広がっています。この落差に心が痛みます。

自然を前にいかに人が無力であるかを思い知った東日本大震災。これからどのように暮らしていけば幸せになれるのか・・・考えていかなければなりません。
2012915日)

 

タマアジサイの蕾は苞に包まれている

苞が裂けるようにして開花する

田んぼに置かれたままの瓦礫

 

「福島県における地熱資源開発に関する情報連絡会」の傍聴報告 佐藤 守 

 

背景

★経済産業省が、本県の磐梯朝日国立公園を含む北海道や東北の計5カ所で地熱発電所の開発を進める方針を示し、地熱発電の導入拡大に向け、今年度当初予算案に地表調査の補助事業費など150億円を計上した。特に磐梯。吾妻・安達太良地域を最大規模としている。環境省も推進姿勢を示す。

★日本温泉協会は、地熱発電は問題が多いとして反対を表明。3/15には山形県と福島県の温泉業者および自然保護団体により磐梯・吾妻・安達太良地熱開発対策委員会が設立され、両県知事に反対の陳情をしている。

★福島県の関係自治体は福島市、二本松市、大玉村、郡山市、猪苗代町、北塩原村、磐梯町。 

地熱発電が環境に与える影響

 地熱発電が環境に及ぼす主な影響として,次の諸点が考えられる。

 1)温泉の枯渇: 汲み上げによって温泉資源が減少または枯渇する

 2)崖崩れ: 汲み上げまたは不用水の還元(地中への戻し)によって変化する

 3)地震: 汲み上げまたは不用水の還元に伴って地震が誘発される

 4)地下水の汚染: 不用水の還元によって毒性の物質が他の地下水を汚染する

 5)大気汚染: 毒性のある気化性物質によって大気が汚染される

 6)表層土の汚染: 毒性のある気化性物質,固形物質によって大地が汚染される

 7)景観の悪化: 人工構築物および白煙によって景観が損ねられる

 これらを引き起こす要因は,主として, (1)熱水の汲み上げ,(2)不用水の還元,(3)熱水,蒸気に含まれる毒性,(4)施設構築自体の4つである。

地熱発電が環境に与える影響〜小波盛佳(技術士,工学博士,現在千葉大学等非常勤講師)のオフィシャル・ページより一部転載(20124月/9745頁) 

731日に「福島県における地熱資源開発に関する情報連絡会」が開催されました。私は、仕事(放射能関係)の都合があり、最後まで傍聴できませんでしたが、その概要について報告します。

 

「情報連絡会」構成メンバー

福島県(司会:エネルギー課長・佐々木)、新妻弘明(東北大学名誉教授:10年間福島県とかかわってきた)、齊藤美佐(NPOネットワークセンター常務。福島情報ステーション代表。民間の立場から地域づくりに係わっている。)、国際石油開発・足立(奥会津地熱の状況。地熱開発協議会会長をしていた)、出光興産(後藤)、佐藤好億(福島県温泉協会会長)、菅野豊(福島県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長)、遠藤淳一(磐梯・吾妻・安達太良地熱開発対策委員会委員長)、県自然保護協会(星)、日本野鳥の会福島県支部、福島商工会議所(引地)、福島県商工会連合会

 

情報連絡会の設置について(福島県エネルギー課長)

l  地熱発電に関する説明会・意見交換会をやってきた。1回目(4/11)は業者から開発計画の説明があった。2回目(5/16)は温泉業者から意見聴取した。これまでの2回の意見交換会で明らかになった宿題を引き継いで今度とも話し合いを継続するため情報連絡会を設置することにした。この会は県共通の情報交換の場として位置着けており、本日の資料等はwebで公開する(現在のところ未公開)。

l  県としては、原子力に依存しないエネルギーを開発すること、本県を再生可能エネルギーの先駆けになることを方針としている。そのため再生可能エネルギーは積極的に推進する。しかし、地域住民の理解のもとに進めることを前提とする。

 

地熱資源開発を取り巻く動向や課題について (経済産業省燃料政策企画室室長)

l  地熱発電所は1999年に八丈島で建設されて以来、新たな設定は無い。

l  固定価格買い取り制度(新エネルギーで発電した電力を固定された価格で電力会社に買い取りする)が導入され、地熱発電はコスト面で有利になった。併せて国立・国定公園内でも環境に配慮した開発なら認められることに規制緩和された。

l  地熱発電の潜在規模は現在の日本の全発電量の10%に相当する。

l  還元水(地下からくみ上げた水を戻す)が地震を誘発する等5月の意見交換会で指摘された内容とそれに対する対応状況を改めて整理した。今後の計画に活かしていきたい。

l  温泉水のくみ上げは浅いところからなので地表面の水の影響を受けやすい。また、騒音問題は上記流出口付近が最も影響が大きい。還元井戸に付着するスケールを溶かすために硫酸を使用するが、温泉にも硫酸はもともと存在している(意味不明)。

 

経済産業省の説明に対して(福島県エネルギー課長)

l  これが5月の意見交換会で出された疑問にたいする説明になっているとは理解していない。また今回の説明の証明はできていないと理解している。

l  経済産業省の示した資料は地熱発電で危惧される問題は解消されるとの内容のみであり不十分である。県としての提案であるが、温泉枯渇、地震誘発等について、事実関係を整理して両論併記で整理し、資料化すべきではないか。

 

福島県温泉協会

地熱発電の問題に関して5つのお願いをしている

1.何をやるにしても地元の合意形成が必要。無秩序な(公益性に反する=地方経済構造に大きな変化を伴うも

の)地熱開発は反対。分からないものをそのままで進めない。

2.担保された情報公開。第3者機関による検証。ほとんどが開発業者の中に資料がある。国では資料をもって

いない。

3.最大のポテンシャル量をマックスにおかない開発をお願いしたい。優良発電所はごく一部。福島県の有様を

見通した温泉利用を考えるべき

4.継続的かつ広範囲にわたる環境モニタリングをすべき。モニタリングを開発事業者にまかせない。福島で発

電された電力は関東圏に利用されるのが前提。温泉を利用したバイナリー発電等地産地消ならやむをえない

が。

5.万が一地元に被害が発生した場合の賠償については何も決められていない。数か所は必ず、地元との約束

文書が交わされている。

 

福島県旅館ホテル生活衛生同業組合

l  福島県民は地震、津波、原発で苦しんでいる。エネルギー庁の説明に何故、安全性が最初に出てこないのか。何故、最初の説明が採算性なのか。安全性を確約しないままでの開発行為は許されない。

l  予算がつているからもっと早くしてほしいとの雑音が入ってくる。県として認めてもらっては困る。こういう問題は話を聞いているとつらい。

l  身うちは県外に避難し戻ってこない。地熱は安全ですから大丈夫でしょうという方が多い。

 

磐梯・吾妻・安達太良地熱開発対策委員会(平成24314日設立)

温泉地としてリスクが多く心配である。これだけ温泉枯渇が知られていながら地熱開発が進められているのは驚き。あまりにも環境評価がいい加減に思う。新たな環境問題を次の世代に残したくない。

 

福島県自然保護協会

l  エネルギー問題を考えた場合、第2次世界大戦後、長野で水力発電がすすんだ。ダムが土砂に埋まってしまいダムが満杯になり上流の集落に被害が発生し、放流すると下流の部落が被害。こんどの原発で福島県民はエネルギー開発の犠牲者になってしまった。

l  会津、中通りの森林は2年前にようやく生態系保護地域に指定されたのに今回はその流れに逆行し、森林破壊が心配。浄土平で住友地熱開発が5万キロ発電をめざして調査。環境庁が通産省を説得し調査は中止となった。

l  猛禽類は騒音に弱く生息できなくなる。生物多様性が損なわれる。地熱発電計画はやめるべきである。猪苗代ではくみ上げられたヒ素が猪苗代湖に流れる事態になったら、郡山はじめ甚大な被害を受ける。

 

福島県エネルギー課長

5月の意見交換会で指摘された6項目(温泉枯渇、還元水の地震誘発、騒音問題、蒸気問題、ヒ素流出、硫酸添加による影響)に加え、安全性、自然環境保護、温泉協会からの指摘5項目について今後、引き続き、この交換会の中で整理していきたい。

 

出光興産

地元の合意は必要と考えている。そのため情報開示・協議会設置が必要と考えている。継続的環境モニタリングについても調査の段階から考えている。過剰採取についても環境データは協議会で開示させていただく。それに基づき利用規模を判断していきたい。補償契約(回復作業の明確化)については地域ごとに対応させていただきたい。

 

温泉協会:これは回答なのか

県:回答としては受け取っていない。

 

「福島県磐梯-吾妻-安達太良地域」資源調査について(日本地熱開発協議会・福島地熱プロジェクトチーム)

福島県エネルギー課長:地熱開発自体は10年かかるのでそれを、ここで議論しても仕方がないので、調査について説明を受けたい。

l  調査をしたから開発を進めるという立場に立っていない。地元の合意(1〜3次調査)に基づき進めていきたい。1次調査は23カ月かかる。

質疑

l  環境調査について基調動植物が確認された場合、居りましただけで2、3次調査を進めるのか。

l  そういう場所は避けて掘削を進めることになる。

l  初めから地熱発電ありき。事業者のタイムテーブルの説明ではないのか。今年は1次調査はやめ、議論をすすめた上で実施すべきでは。

l  10年後の電力の需給関係がどうなっているか(3,4,5番目)の見通しがないまま調査を認めていいのか分からない。福島県の将来にわたる地下資源の見通しが分からない。基礎条件が満たされない限り、ゴーサインは無理。

l  これだけのバランスが崩れて、50の原発が止まっても、支障がない状態。原発の後始末をどうするかも決まっていない状況で、事業者任せで地熱発電に走っていいのか。

l  安全性の側面からみたら原発も地熱も同じパターンで来ている。

l  県(佐々木):進むにしろやめるにしろ、今回提示された10数項目について丁寧に検討して進めていきたい。これから1年なり半年かけて進めていきたい。ただし、調査はすすめてもらってもいいのではないか。調査全体で2年〜3年かかる。天栄村でも地熱開発の話があり結局、賦存量が無い言うことでやめてしまった。

 

国際石油開発

31年前の1981年に三井金属で柳津西山地区で、パーライトを対象にして地質調査し、地熱発電可能と判断し、地元に説明した。反対もあった。町の骨折りで6件の温泉業者に行って説明した。以来30年以上続けている。地震との関係も20年以上続けている。調査を開始して14年後にようやく発電を開始した。運転が開始されてから17年が経過した。迷惑をかけているのも事実かもしれないがその都度解決すべく努力を続けている。地元と共存共栄できていると私は思っている。西山発電所は640トン/h×14本+7本追加し、4万キロWの能力があるが、現在の発電量は2万5千キロWである。

 

温泉協会:坑井、掘削調査は5項目を明らかにしてもらわないと認めるわけにはいかない。堀口をコンクリートで固めれば他県まで掘ることが可能。地表調査についてもか所等もっと具体的に提示してもらわないと我々はOKできない。

県自然保護協会:調査に入ってしまうと計画がどんどん進んでしまう。調査はしない方がいい。