西吾妻山域登山道保全に対する環境省の方針

裏磐梯自然保護官事務所に西吾妻登山道保全対策と吾妻連峰生態系保全協議会の設立について申し入れをしていましたが201129日にそれに対する回答と説明がありました。その概要は以下の通りです。

出席者

環境省東北地方環境事務所裏磐梯自然保護官事務所

首席自然保護官 新田弘市、自然保護官 福地壮太

NF米沢

代表 青柳和良、副代表  竹田洋之

高山の原生林を守る会

代表 佐藤 守、事務局長 奥田 博

 

裏磐梯自然保護官事務所の説明(福地氏)

6月に若女平コースおよび西吾妻小屋−西大巓山頂間の登山道周辺の植生崩壊に対する環境省としての対応と吾妻連峰全体の自然環境保全協議会設立の要望があった。会津森林管理署と一緒に現場を踏査して申し入れのあった地域の現状を確認した。その後、環境省としての対応を検討してきたが、今回、当面の方針が固まったので説明したい。

1.協議会設立について

飯豊山地保全協議会については、地元の山岳会の強い思い入れと活発な保護活動に対する協力があって成立している。会合には50名を超える参加者がある。吾妻連峰の場合は、関係機関の意識もばらばらであり、協議会立ち上げは現状では困難と考えている。

 

2.若女平コースおよび西吾妻小屋−西大巓山頂間の登山道周辺の植生崩壊対策について

協議会立ち上げとは別に今回問題になっている箇所に対する個別の対応策について検討した。自然公園計画図では西吾妻−一切経縦走道路の事業執行者としては、東大巓を基点として東側が福島県、西側が山形県とすることで合意している。これは昭和4897日に環境省の公園事業計画として決定したものである。従って西吾妻小屋−西大巓山頂間は山形県が現在の管理責任者である。若女平コースについては管理責任者が空白となっている。このような行政上の枠組みに基づき、環境省としては以下のように対応することとした。

(1)西吾妻小屋−西大巓山頂間の登山道保全

山形県が事業執行者である以上、環境省が主体的に動くことはできない。まず、行政機関とのすり合わせをする必要がある。具体的には、関係する行政機関(山形県、米沢市)に担当者レベルで接触し、現状を説明し、事業執行者としての対応策を検討するよう働きかけていきたい。その後、自然保護グループも含めた民間関係者も参加した意見交換会を設けることも検討したい。

(2)若女平コース

管理責任者がいないので裏磐梯自然保護官事務所が主体となって対応していきたい。まず、東北地方環境事務所に相談をし、対策を考えていきたい。

 

高山の原生林を守る会からは、以下の2点について要望した

1.行政的に管理責任者が明確にされても、実態として機能しなければ植生崩壊は進行してしまう。民間の自然保護団体などが参加した協議会を設置することで、行政的対応の遅れが明確になるし、行政同士の連携も可能となる。山岳の自然保護や登山道保全に関する大学の研究や環境省の取り組みでもこのような協議会方式が最も効果的であることが認識されつつあるので協議会立ち上げについても検討されたい。なお、山形県の対応次第ではNF米沢とともに要望書を提出することも検討したいので適宜、情報提供していただきたい。 

2.水場から西大巓の区間は、地形的な問題も植生崩壊に関係している可能性もあるので、木道の設置など物理的対応だけでは崩壊防止は困難ではないかと危惧している。専門家による現地調査も検討されたい。

これらの件については、NF米沢・青柳代表からも同様の意見が述べられた。また、登山道は環境省、登山道以外のエリアは森林管理署と区分されているが、実態としては登山道周辺も一体的に植生崩壊が進んでいる。特に若女平はそのような現象が顕著であり、行政的に割り切ることは必ずしもできないとの意見が述べられた。

 

 

 

 入口

 崩壊湿原

 泥炭が喪失し礫がむき出しに

 

 

種髪   鎌田 和子

 12月初めの昼過ぎ、家の近くの公園の前で、孫が帰ってくるのを待っていると、目の前に、白いふわふわしたものが飛んできました。「あっ、これかも!」とすぐに追いかけました。それは、何日か前から気になって探していたものかもしれないのです。先日、夫が、小さくて平べったいタネと、それに付いていたという白い絹糸のようなものを拾ってきたのです。夫から、「これ、何のタネ?」と聞かれましたが、私にもそれが何のタネなのかは分かりませんでした。なんか前に見たことがあるような…、いえ、初めて見たような…。その絹毛のタネは、ふわふわと風に乗ってやってきて、たまたま、わが家の敷地に舞い降りたのでしょう。もっと落ちていないかと探しましたが、見つかりませんでした。周囲を見渡しても、それらしい果実をつけた植物は見当たりません。

そういういきさつの「ふわふわ」が、偶然、目の前を飛んで行きます。アスファルトの舗装路に着地するのを目で追い、駆けて行って近づくと、ふわっと飛び立ってしまう。「コラ、待て!逃げるなッ!」の繰り返しの末、やっと捕まえました。そのタネは、やはり夫が拾ったものと同じ形をしていました。さて、これは何のタネなのでしょう。この時期に、絹毛になって種子を飛ばす植物って何かしら?思いつきそうな感じがするのですが、何も浮かんできません。そうこうしているうちに、孫が帰ってきたのをしおに「ふわふわの果実」のことをすっかり忘れていました。

この忘却が意外といい結果を招くようなのです。頭を冷やすことになるのかもしれません。数日後、家事が一段落し、腰を下ろしたとたん、「ふわふわ」を思い出しました。あの日、紙切れに挟んでポケットに入れたままだったのです。急いで取り出しました。が、もう白い絹毛は見つかりません。幸いタネのほうが見つかったのでほっとしました。日ごろは植物にあまり関心を示さない夫ですが、この「ふわふわ」は気になっていたらしく、調べるのを手伝うと言います。それで、多田多恵子さんの「種子たちの知恵」という本を、夫に見てもらうことにしました。私は、タネの形が、一見ナツツバキに似ているので、念のため植物図鑑でナツツバキのページを繰りました。やはり、ナツツバキのタネに絹毛などついているという記述はありません。次は何を手がかりにして調べたらいいのやら…。手持ちの植物図鑑の「樹に咲く花」かな、「野に咲く花」かな、どっちから調べようか、それよりは、あの「ふわふわ」が飛んできた先を探したほうが…なんて思ったりして、調べに集中できずにいると、夫が「これが似ているかな?」と声を発しました。本を受け取ってよく見ると、バックを黒くして「絹毛とタネ」がはっきり見えるように撮った写真が小さく載っていました。〈ガガイモのタネ〉でした。白い絹毛は、種子の一部が変化したもので、形態学的には『種髪』というのだそうです。 

謎の生き物の正体が分かってしまうと、ナアーンだと思うのはいつものことなのですが、ガガイモの果実に、ずうっと昔、私は出会っていたのでした。阿武隈川の土手近くで、その『風変わりな実』の裂け目からのぞいている白い絹毛に驚いたことや、そのときに、夫が小さい頃、その白い毛を「血止め」と呼んで、いっぱい集めたりしたことがあると言っていた記憶が蘇って、ホントに「ナーンだ!」と、二人で笑ってしまいました。あの頃は、純白に輝く絹毛の束に見とれ、一つ一つのタネは見えてなかったのでしょう。それが20数年を経た今、庭先に落ちていた1個のタネが夫の視野に入り、その何日か後には、ガガイモのタネの1個が「移動」しているところに、私が出会ったのでした。偶然の重なりとはいえ、運よく謎が解け、気分はさわやか!さっそくガガイモの果実を探しに出かけました(2010.12.24)

 種髪の舞!

タネが飛び去り『天の羅摩船』に! 

 

 

 

鹿狼山から  
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 鹿狼山のスプリングエフェメラル     小幡 仁子

  

 4月3日()には「高山の原生林を守る会・自然観察会115回」が鹿狼山で行われることになった。担当は私になっている。内容は鹿狼山のスプリングエフェメラルとスミレの観察である。例年4月の第1週目土日にはカタクリ・キクザキイチゲ・アヅマイチゲなどは開花しているので、この日に決定した。

鹿狼山は430mの小さい山であるが、カタクリの群落を見ることができる。しかし、寒い年、暖かい年で、前後1週間くらいずれるので、丁度見頃にあたるかどうかはその時期になってみないと分からない。昨年も、この日ならばと思い、東京からお客様3人を迎えたが、3月下旬が意外に寒く、カタクリは鹿狼山の入り口で2・3輪開花している程度で、後は蕾だった。それでも、カタクリの蕾が大切に守られるように葉っぱに包まれ、寒さをしのいでいる姿が、お人形のようにかわいいわと、スケッチブックを取り出して、丁寧に描かれて行った。東京でカタクリを見ようと思えば大変な行列で、立ち止まったり、スケッチをしたりすることはできないそうである。「こんなに、ゆっくりとカタクリをみたことはなかった。」ということなので、私としてはほっとしたのである。翌週の4月11日にも登ってみたが、満開の中にもしぼんだものがあり、盛りは過ぎていた。本当によい時期は短いのである。

 カタクリ・キクザキザキイチゲ・アヅマイチゲなど春先に一斉に咲いて、咲いたかと思うとすぐに消え去ってしまう。このような草花をスプリングエフェメラルといい、「春の儚いもの」「春の短い命」という意味で、温帯の広葉樹林帯に適した植物であり、春の明るい林床で光合成を行い、根茎や球根に栄養を蓄える。と本には説明されていた。明るい日差しの中で花びらをくるんと巻き上げて、うつむきがちに咲くカタクリの花は、誠に美しく、誰もが引きつけられる花である。4月3日に会員の皆様がここに来られるときは、お天気の良い日であることを祈りたい。

さて、スミレの方であるが、鹿狼山には12種類のスミレがあることを以前「鹿狼山のスミレ達」という題で書いたことがある。アオイスミレ、マキノスミレ、マルバスミレ、ヒナスミレ、エイザンスミレ、アカネスミレ、タチツボスミレ、オオタチツボスミレ、アケボノスミレ、サクラスミレ、ニオイタチツボスミレ、ツボスミレで12種類となる。例年3月末にはアオイスミレが咲くので4月3日にはきっと会えると思う。丸い葉っぱに、薄青い花びらで、この花びらがひらひらとフリルのようになっており、とても愛らしいのである。「スミレのプリンセス」と言われるヒナスミレには少し早いかもしれない。

寒い冬も峠を越え、春の気配がする今日この頃である。鹿狼山の林床、土中のカタクリの球根はどのくらい目覚めているのだろうか、掘り起こしてみたい気がする。                                  (2011/02/27記)

鹿狼山のカタクリ群落

お人形のようなカタクリの蕾

アオイスミレ