荒川河川敷のイタチハギ大群落は何故、成立したのか   佐藤 守

  この春、気になった植物にイタチハギがあります。ことの発端は、「赤い尻尾のような花が咲いているけどなんの木?」との嫁さんの問いかけでした。ニセアカシアの花が咲き終わった頃でしたので、すぐには思いつきませんでしたが、キャノン工場裏にかかる荒川の橋の入口に穂状花を立てた株を見つけ、イタチハギであることがわかりました。独特の花の色もさることながら、外来植物というのが気になり、イタチハギの現状を調べてみました。

イタチハギは北米・メキシコ原産のマメ科イタチハギ属の落葉低木で、1912年に観賞用として渡来した外来植物です。戦後になると韓国から砂防、防風、護岸、緑化、飼料用として本格的に導入されました。特に道路の法面には緑化用として積極的に吹き付けられました。これは、イタチハギの根系が水平に伸び、細根も多く発生するため土壌緊縛力が強いこと、窒素固定能力を持つため肥料木としての効果も高いこと、生長が速く、耐暑性、耐乾性、耐陰性を備え、繁殖力も強いこと、他の緑化用植物と比較して価格が安いことなどから、経済効果が高いことが認められたためです。また、公共工事でも積極的に活用が推進された歴史があるようです。

法面でのイタチハギ導入は土壌が落ち着いた後は、周辺の在来樹木の自然繁殖により更新されることを期待したようですが、実際にはなかなかそのようにはなっていないようです。これは葉群密度が高いため、樹冠下の光条件が悪く、侵入種子が定着できないことが一因となっています。それどころか、pH23の強酸性地でも生育できることから、最近では、霧ヶ峰、白山等の自然度の高い亜高山帯にも侵入し、在来種と競合し問題視されています。県内でもグランデコスキー場のゴンドラ終点駅の上部ゲレンデで既にイタチハギの植生が確認されています。また、イタチハギの本来の生育地が河川敷や荒廃地などであることを反映して、法面から逸出したイタチハギが河川敷で大群落を形成している事例が全国各地で見られています。河川の外来植物としては同じマメ科のニセアカシア(ハリエンジュ)が定着していますが、イタチハギはクロバナエンジュの別名を持つだけに葉だけの時はハリエンジュと間違いやすいです。イタチハギは葉の裏面に腺点があることで区別します。

通勤の帰りに、橋下の河川敷に黒紫の穂が一面に広がっているのに気づきました。橋の上から確認するとイタチハギの大群落が形成されていたのです。今さらながらにイタチハギの繁殖力のすごさを見せつけられた思いがしました。河川は脆弱な生態系であり、多くの河川固有種がレッドデータブックに掲載されています。更に,流域圏という視点から見ると一帯は上流域であり、この流域でのイタチハギの群落形成は下流域に対して予測できない生態的影響を与えるのではないかと危惧されます。

荒川河川敷の大群落に驚嘆したその週末の登山帰りに、土湯の道の駅から福島方面に向かう道路わきの法面でイタチハギの吹き付け工法が施されていたことを知りました。全面が黒紫の花に被われていたのです。以前、西和賀町を訪れた際に、カタクリの会の瀬川さんが国土交通省の道路工事の法面はイタチハギだらけだとあきれていたことを思い出しました。更に絶句したのは、この法面の夏の光景です。そこはイタチハギと競うかのように特定外来生物のオオハンゴンソウが大群落を形成し、今度は黄色い花で占拠されていました。イタチハギの種子は埋土種子としてシードバンク化することも明らかになっています。イタチハギが在来種に更新されるためには20年以上を要するとの研究例があります。この事例は関西での限定的な事例です。生態的遷移は周辺の環境に依存します。東北であてはまるかは未知数です。

2005 年に施行された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」では、イタチハギは特定外来生物指定に至らず要注意外来生物指定に留まっています。これは、公共工事で国が推奨してきた過去が反映されているのかもしれません。現在では道路の法面緑化施工として在来種を活用した工法が開発され、推奨されているようですが、全国的に蔓延したイタチハギについては野放し状態です。無管理状態にあるイタチハギ対策については、公共工事として、行政が推進した以上、行政責任として早急に取り組むべき課題ではないでしょうか。

 

 

 荒川河川敷に広がるイタチハギの花

 イタチハギとオオハンゴンソウが優占する法面

シュンランの果実   鎌田 和子

 小さい頃、私はシュンランのことをジジババとよんでいました。数年前、そのジジババに果実がなると聞いてびっくり。どんな果実なのでしょう。早く見てみたいものだと、ずうっと探していて、昨年(20094)、「小鳥の森」で初めてその果実(写真@)を見つけたのです。それは想像していたより堅固な感じの果実でした。その筒状の果実は縦長に隙間があいていました。中の種子はすでに飛んでしまったのでしょうか。振っても何も出てきません。役目を終えた空っぽの果実に、私は見とれました。

自然が造るものって、なぜにこうも美しいのでしょう。いつの頃からか、私は、花が咲き終わった後の果実に惹かれ、果実を観察するようになりました。その結果、私なりに納得したことがあります。それは、果実が堅固なのは、種子を守り育て、是が非でも世代をつなぐ、そのための知恵であろうこと。そして、その果実たちの独特な美しさは、自然の神秘としか言いようがないことを悟ったのです。アカガシやアラカシの殻斗の色と風合いが微妙に異なることや、マンサクの本物の果実は、スズランの花の形に似ていてハッとしたことなどが思い出されます。果実はみな堅固で美しい。

話はシュンランにもどります。シュンランの果実がめったに見られないのはどうしてなのでしょう。わが家の松の木の根元にもシュンランの株があります。けれど、20数年間、そのシュンランに果実がなったことは一度もありません。なぜ?受粉がうまくいかないから?ならば人工受粉してみようか…。人工受粉の経験など全くないのに、単純な疑問を解き明かそうと、私は、シュンランに人工受粉まがいのことを試みました。そして、そのことをすっかり忘れていて、ある日、ふっと思い出し、松の木の根元を見ました。なんと、シュンランの花茎が一本だけ、枯れずにニョッキリ立っていたのです。ひょっとしたら人工受粉に成功したのかも!?このニョッキリしたのが果実になるのかもしれない。なのに、そのとき写真を撮ってないのは、かなり興奮したのでしょう。

何日か経ってから、写真を撮って経過を記録しなくてはと思ったのですから。そう気づいて撮ったのが写真Aです。それから2週間ほど経過したのが写真Bです。グリーンの部分が太ってきています。人工受粉に成功したかどうかより、これから、シュンランの果実が熟していく過程を、庭先で観察できることのほうが嬉しくてたまりませんでした。

8月の半ばを過ぎても、果実はまだ青々したままです。でも、シュンランの果実の上部に残っていた花びらは完全に縮んで、こぶ状になり、周りにはカラスウリの葉が伸びています(写真C)。この奇跡のようなシュンランの果実が、やがて褐色になり、鞘が裂け、種子を撒き散らすのかしら!その光景を見逃さないようにしなくてはと、今からドキドキしています。

(2010.8.17)

 

 @    「小鳥の森」で見たシュンランの果実

 A人工受粉が成功したかな?

B少し太くなってきた感じ

 Cシュンランの果実まちがいなし!

 

 

鹿狼山から  
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 鹿狼山のヌサバリコ     小幡 仁子

  今年の夏は暑かった。相馬は冬が暖かく、夏は涼しいからいいね、とよく言われるが、それは本当なのか?と思われるほど暑かった。ところで、私は夏の休暇で、家の大掃除をすることにしている。(冬は寒いから大掃除はしない)庭木の剪定から始まって、ガラス磨きや窓の桟拭き、カーテンの洗濯、押し入れの中、台所等、不要品は思い切って捨ててしまう。さあ、今年もやるぞと始まったが、毎日あまりにも暑くて大汗をかき、我慢の限界を超えてはお風呂に入ってアイスを食べ、お昼寝をしてしまうという繰り返しを3、4日していた。そこへ、台風と共にほんの少し涼風もやってきたのが813日であった。そうだ、ここしばらく鹿狼山に行ってなかったと、早速出かけることにした。

鹿狼山はすでに秋の気配がした。ダイコンソウとキツネノボタンの花は終わり、実になっていた。早速、ルーペで実を覗いてみた。ダイコンソウもキツノボタンも実から針のような棘が出ていた。ああそうだった、こういうのを動物散布とか「引っ付き虫」とか言って、動物の毛や人の衣服にくっついて種を遠くに運ぶのだった、と思い出した。そういえば、西和賀のカタクリの会に参加したとき、こういう「引っ付き虫」を何と言うのかが話題になった。福島県人と宮城県人は「バカ」、岩手県人は「ドロボー」と言っていた。私も子どもの頃は、この手の実を友達の背中に投げつけて「バカが付いてる。ヤーイ!」などとはやしたてて遊んだものである。その時に、秋田県人が「ほれは、おら方ではヌサバリコっつうんだ」と言った。「はあ、ヌサバリコですか?フランス語みたいですねえ」と一同初めて聞く言葉に感心した。ヌの発音がノに近いような鼻に抜ける音だった。

後で秋田県出身の同僚に聞いてみたら、服にそんな実が付くと確かに「ヌサバリコくっ付いている」と言うし、それから、子どもが大人に甘えてべたべたくっ付いたりすることも「ヌサバル」って言うんです。それに秋田では、言葉の最後によく「〜コ」と付けますから。ということだった。そうすると、ヌサバリコというのは、言葉の意味そのものが名前になっているので、私たちが「バカ」と呼んでいるよりずっと筋が通っているわけである。それに「バカ」や「ドロボー」と言うより、「ヌサバリコ」と言う方がずっと聞こえがいいように思われた。

(ふ〜む。これから鹿狼山では「引っ付き虫」を「ヌサバリコ」と呼ぼう。)

さて、ダイコンソウの実をよく見てみると、棘の先端にもう一つ付属物があり、キツネノボタンの方は棘の先がそのまま鉤状になっている。この差は何だろうと素朴な疑問がわいたのでネットで調べてみたら、驚くべきことが分かった。

「ダイコンソウの実・・鉤のように曲がった先にもう一度曲がった物がついていて、触っても引っかかりません。種子が熟してくると先端に付いていた物は取れてなくなり、鋭くとがって鉤状になった先が服に付くようになります。種子が熟さない内に運ばれてしまっては困ります。それまでの間は何かが触れても引っかからないようになっていて、種子が熟してきたらくっつきやすい形にかわる。こんな小さな草にも、素晴らしい工夫がなされていました。・・この棘は雌しべの花柱、種子が未熟な時に何かにくっつかないように防御していたのは柱頭でした。効率よく種子を散布してもらうための工夫だけでも素晴らしいのに、・・受粉に必要だった柱頭が実が熟するまで働き続けるというのもすごい仕組みです。」この説明を読んで、植物の世界は実に良くできていると思った。と同時に、なぜキツネノボタンは最初から棘が鉤状なのかという素朴な疑問がわいた。きっとそのことにも理由があるのだろうが・・。(2010/09/12)            

ダイコンソウの実

棘は花柱、棘の先端の付属物は柱頭である

キツネノボタンの実

種子の先端は鉤状になっている

 

 

会報紹介                      船形山のブナを守る会・会報Vol.10「ブナの森」 

宮城県の自然保護グループ「船形山のブナを守る会」(代表 小関俊夫)の会報を紹介します。同会は1986年に設立され、以来船形山のブナ林の保全活動を活発に展開してきました。その活動は地元の小学校の副読本に掲載されることからも地元の住民から高く評価されていることがうかがえます。

今回の会報では、「コンクリートのダムと緑のダム」と題する特集が組まれています。本特集ではダム問題の中でも一般マスコミから見過ごされている治山ダムや水系砂防ダムに特に焦点をあて、その問題点について5人の筆者により多面的な角度から論じられています。

 特集に続く自然保護に関する35名の寄稿文も充実しています。特に、奥田博さんと瀬川陽子さんは、「高山の原生林を守る会」、「カタクリの会」の活動内容に触れながら、自然保護と自然観察会の関係について論じています。また、深野稔生さんの「結ばぬ偶像、小川登喜男と船形山」は山好きなら思わず読み込んでしまう掘り出し物です。船形山からキリマンジャロまで俯瞰する豊富な編集内容は、自然に関心のある読者なら思わぬ発見があるものと思います。

  会報はA5140ページ仕立て、有償(頒価1000円)です。購入を希望する方は「船形山のブナを守る会」事務局(青沼健:TEL0229-22-2697)に直接、お申し込みください。