宮崎県「綾」の照葉樹林       鎌田和子

 

 一枚の風景印に端を発した私の「照葉樹めぐりの旅」は、今回は宮崎県へと向かったのでした。照葉樹の芽吹いたばかりのつやつやした葉の輝きを美しいと感じるようになった私に、「宮崎・綾の照葉樹林 新緑とシイの一斉開花」を観察する案内が舞い込んできたのです。講師は「姉崎一馬氏」(樹木の写真家)30年前に月刊予約で手に入れた、あの福音館の絵本「はるにれ」の著者でもあるらしい。その観察会をぐんと身近に感じて参加しました。ミーハーかなと思いながらも、姉崎一馬氏にサインをと、出発の際はその擦り切れた絵本をザックに入れるのを忘れませんでした。

「綾の照葉樹林」は私の想像をはるかに超えていました。百聞は一見にしかずの言葉通りでした。一日目は「綾の大吊り橋」周辺を歩いて照葉樹林への入門です。綾渓谷に架かる大吊り橋のたもとに近づくと、クリの花に似た強い香りがしてきました。それはシイの花のにおいであるとのこと。山一面がもこもことクリーム色のカリフラワー状態に盛り上がっています。満開のシイの花が造りだす光景なのだそうです。大吊り橋の真ん中に立って眺めると、山全体がどこもかしこも照葉樹に覆われていることがわかります。こんな山域が存在していたのかと、ただただ驚嘆するばかり。姉崎氏の説明によると、この辺りのシイは90年くらいとのこと。二次林ということになるのかな。スダジイやコジイは照葉樹のパイオニアらしい。

大吊り橋を渡りきると、いよいよ照葉樹林に足を踏み入れる。あの白い花は?クロバイ。初めて見る樹木です。この新芽が紫色をしているのは?カンザブロウノキ。へぇ〜、『寒三郎の木』なんて北風小僧みたい!暖かいところに生えているのに!?どれもこれもお初のものばかり。イスノキ、バリバリノキ、コバンモチ、ミサオノキ…。最初は喜んで観察していましたが、見慣れない樹木、聞いたことのない樹木だけっていうのは、あまり気分のいいものではありません。不機嫌になりそうになった頃、あれっ!これウマノスズクサじゃない?聞けばオオバウマノスズクサとのこと。急に元気になってワクワクそわそわ、ジャコウアゲハが飛んでいるかもしれないのです。今日はもう夕方だから明日に期待するしかありません。と、まもなく、枯れ葉色の蝶が一頭飛んできました。初めて見る蝶でした。姉崎先生はすぐさま「ウスイロコノマチョウか、クロコノマチョウでしょう」と教えてくださいました。驚く私に「蝶少年でしたから…」とおっしゃるので、またビックリ。

翌日は、大吊り橋よりもっと先の、昨日歩いた山より照葉樹林の原生状態を残しているというところへ車で向かいました。今日はイチイガシとタブノキの巨木に出会えるのです。車を降りると、これから登っていく山を見上げながら樹種の説明がありました。ところが、そこに、ツツジの花の蜜を吸うジャコウアゲハが群れ飛んでいるではありませんか。姉崎先生のせっかくの解説も上の空で耳に入りません。車を降りた時、道端にオオバウマノスズクサが生えていることに気づいていましたから、もしやと思いました。が、こんなに早くジャコウアゲハに出会えるとは思ってもみませんでした。さすが宮崎は南国です。

いよいよヤマヒルもお出ましになるという原生的な照葉樹林に足を踏み入れました。幸い山道は晴天が続いたおかげで乾いています。ヒルは一匹現れただけでした。わりと明るい樹林の中を進みます。スダジイとコジイの樹肌の違いが明瞭にわかる個体に出会って納得したり、道を塞ぐタブノキの倒木に赤い新芽が出ているのを間近に観察できたと喜んだり、高く高く伸びたイチイガシの樹形がパラソル型になっているのを見上げたりしているうちに、道は急坂にさしかかりました。ジグザグに登っていくと、まもなく本日のメインの巨木タブノキに到着しました。直径や幹周りを姉崎先生から伺いましたが、忘れました。今まで見たどの樹木よりも巨木です。こういう樹木に出会ったときの形容を私は知りません。幹に触ったり、幹の周りをうろうろしたり、枝葉を見上げたり、再び訪れることはないだろうタブノキの巨木を眺める。…その近くで拾ったイチイガシの殻斗とドングリを、タブノキの巨木に出会えた記念にと持ち帰りました。

その日は、もう一つ印象に残ることがありました。観察がまもなく終わりという頃、咲き始めたばかりのシイの花を姉崎先生が望遠鏡で見せてくださいました。レンズを覗くと、空に向かってツンと伸びた若々しい花と、柔らかい黄緑色の、やや細身の葉を間近に見ることができました。つややかで美しく、鋸歯までハッキリと見えます。これ、本当にシイの葉?と疑いをいだいてしまいました。それで、「シイってこんなに鋸歯があるのですか」と質問しました。すると、姉崎先生はその木を別の角度から観察し直してくださいました。そして、「う〜ん、○○かな?」と迷ってしまわれたようです。ちょうどそこへ先生の奥さまの恵美さんがやって来ました。先生は「あれは○○かな」と恵美さんに尋ねられました。すると、双眼鏡を覗いて確認された恵美さんは「花が上に伸びているからシイですネ」とさらりとおっしゃいました。「そうだった!やっぱりシイでいいんだよな」と姉崎先生の安堵の声。綾の照葉樹の観察に20年も通われているとおっしゃる先生が、私の唐突な質問に、つい識別のポイントを忘れてしまわれたのでしょうか。そういうところにより一層親しみを覚えました。照葉樹に関心をいだいて一年そこそこの素人のつぶやきに、姉崎先生と奥さまの恵美さんはきちんと応対してくださいました。その迷いの観察の会話から、シイとカシ類の花の付き方に違いがあるらしい、家に帰って、早く「樹に咲く花」の図鑑で、シイとカシ類の花の付き方を確かめたいと思いました。新たな観察のポイントを得たことは私にとっては嬉しい収穫なのです。

今回の旅行は「照葉樹林をめぐる旅」の完結にと考えていたはずなのですが、まだ照葉樹の旅は続くことになりそうです。(2009.5.10)

 

鹿狼山から  
10 鹿狼山の実     小幡 仁子

 

台風18号が去って、今日は秋晴れの気持ちの良い休日である。朝から頑張って洗濯を3回し、掃除機をかけ、パンジーの苗を庭に植えた。全く主婦は忙しい。あれこれしていたら、お昼になってしまった。鹿狼山に行くのをどうしようかなあ、と思いながらも、山頂のマユミやアオハダの赤い実がきっと良いだろうと思い、出かけることにする。鹿狼山までは車で5分。持って行くのはカメラだけだからお手軽なものである。

さて、駐車場に着いたら、何やらゴロゴロと雷の音がする。あれあれ今日は雷の予報が出ていたっけ?と思っけど、駐車場には10台近くの車があり、間もなく登るらしい母娘連れもいる。私も、ぐるっと回っても1時間超、何とかなるさと行くことに決める。

秋も深まり、山も実りの秋を迎えている。登山道は台風が落としていった枯れ葉や小枝が敷き詰められている。コナラやクヌギのドングリも沢山落ちている。でも、こんな落ちたドングリでは、リス君のエサにはならないだろうけど。いつものところでキブシの木を観察する。今年も実は付けていない。冬芽は大部伸びてきている。この木は雌雄異株で、花の軸が短い方が雌株らしいが、花は満開に咲くけれども、実を付けているのを見たことがない。雄株なのか、日当たりがあまり良くないからか。春4月、カタクリの花が終わる頃に、このキブシは見頃となる。黄色の花穂が垂れ下がり、簪のようで可愛い花である。この実で昔は、黒色を染めたらしい。(江戸時代にお歯黒に使われていた)私は、このキブシの実が沢山なったら、少し頂戴して糸を染めてみたいと思っている。でも、これではそんな機会は巡って来ないかもしれない。

登山道沿いの斜面にマムシグサの赤い実を見つける。いつだっけか、鹿狼山を登る子供が「うわー、赤トウモロコシ!」と言っていた。子供はうまいことを言うものである。まさに赤トウモロコシだ。あの姿からこの実がなるのは不思議なので、春にマムシグサの中をルーペで観察し、雄しべや雌しべがどのようになっているのか確認しようと思っているのだが、まだ果たしていない。蛇は苦手である。マムシグサはあまり好きになれない植物である。できれば、「蛇はパス!マムシはもっとパス!」だ。そして、トウモロコシと言えどマムシグサである。ちょっと味見をする気にもなれないなあ。

さて、頂上直下にマユミの大木があって、予想通り、今年は沢山の実がなっていて見事である。頂上にもマユミの木があり、それほど大きくはないが、これも沢山の実を付けている。父の話では、昔は鹿狼山には大きなマユミやツリバナの木が沢山あって、庭木として重宝がられた時期に、大部掘られてしまったということであった。これらはその難を逃れたものかもしれない。

ところで、頂上に着くとに、「ゴロゴロ」が待っていたとばかりに音高くなった。頂上には赤ん坊連れの若夫婦がいて、背負子に赤ん坊を入れて、荷物をかたづけているところだった。秋の鹿狼山を赤ん坊と共に楽しむつもりで来ていたに違いない。それから、登山口から一緒の母娘の2人組もいる。再び「ゴロゴロ」みんなで顔を見合わせる。「これはいけない。早く降りましょう」と声をかけたけど、誰もそんなに早く雨が降るとは思っていない。東の空はまだ明るく、青空が見える。「まだ大丈夫でしょう」と言っている内にパラパラッと降り出してきた。列の一番後ろに赤ん坊がいる。「赤ちゃんに被せるものはある?」と聞くと「あります」との返事。

アオハダの大木まできて、見上げるとやはり夜空の星のように空を覆っていっぱいに赤い実を付けている。でも、先日よりは少なくなった感じがする。今日はこれをじっくり見るつもりだったけど、それどころじゃない。ザーッと雨足が激しくなってくる。自分は濡れてもいいが、カメラは濡らさないように帽子を被せる。細かな雹まじりだ。ずぶ濡れになって中腹の東屋までたどり着く。先に雨宿りしていた4、5人に、大変でしたねえ、と声をかけられる。10分位の差で濡れ方が全然違っている。赤ん坊はどうなったかと思ったら、カッパを頭から被せられて、「エーン」と泣きながら入ってきた。お母さんが「ごめんごめん」と言いながら濡れた頭を拭いている。さぞかし驚いたことだろう。東屋で一緒にいたおじさんが「おーよしよし」と小さな足を撫でた。赤ん坊は、みんなに見つめられているのを感じたのか、直に泣きやんだ

  ゲリラ雨はすぐにおさまり、日が差してきた。山は何事もなかったようにいつもの静けさを取り戻した。私も、濡れた衣服の冷たさが身にしみてきたので、早く降りることにする。家に着いたのが3時過ぎ。丁度1時間半の山歩きである。もちろん、洗濯物はびっしょり濡れていて、午前中の仕事は水の泡となった。(2009/10/10

キブシの冬芽

赤トウモロコシのようなマムシグサ

たくさんの実をつけたマユミ

仮称ハッタチアザミとの出会い        山内幹夫

去る、10月3日に、国立科学博物館の門田裕一先生がいわき市に来られて、いわき市文化センターにおいて「福島県のアザミ類の分類と分布」と題した講演会を行った後、波立海岸に行き、課題となっている仮称ハッタチアザミの現地調査を行いました。その結果、仮称ハッタチアザミは、主に岩手県の遠野市を中心に分布するアザミと関連する新種である旨、教えていただくことができました。

最近、新聞紙上にも掲載されて、多少は注目されることとなった仮称ハッタチアザミについて、その発見のいきさつや、今後の課題について、触れてみたいと思います。

そもそもは、昨年の9月29日、楢葉町の特別養護老人ホームに入所している母親を見舞った後、いわき市平の印刷所に校正原稿を届けに行く途中、波立海岸にツワブキの花を観察するために立ち寄った際に見つけたものです。昨年の9月は、オオカニコウモリやタマブキ・センダイトウヒレン・ノハラアザミなど、キク科の植物に非常に興味を持っていて土湯の山中や湯川渓谷などを歩き回っていましたが、その日、波立海岸に行った時は、お目当てのツワブキは未開花で多少がっかりしていたところ、初めて目にするような姿のアザミに出会ったのです。不思議な姿でした。根生葉は既になく、茎葉は全縁で鋭い棘が葉縁に並び、頭花は狭筒形で点頭していました。アザミの葉に特有な歯牙状の欠刻もなく、とにかく気になったので、デジカメで200カット以上記録写真を撮影いたしました。その時は、これだけ特徴的なアザミであれば、自宅に帰って植物図鑑を調べれば種類は一発で分かるだろうと期待していたのです。

その日は、いわき市での所用を終えて、葛尾村の山中でさらにアザミ属の観察を行ってから帰宅し、気になっていた波立海岸のアザミについて植物図鑑で調べたところ、該当する種がありません。気になって仕方ないので、自分のブログ「やまがっこう」に投稿して皆さんに教えを求めるとともに、写真をプリントして福島県植物研究会会長の湯澤陽一先生にお送りして教えを乞いました。 ところが、湯澤先生も見たことがない未知のアザミということで、アザミの分類では第一人者の国立科学博物館植物研究部の門田裕一先生に資料を送ってしらべてもらうことになりました。その結果、新種である可能性が指摘されたのです。

今年の3月15日に仙台市で開催された、日本植物分類学会第8回大会の、一般公開シンポジウム「東北地方の植物相の成り立ち」において門田先生が「東北のアザミ−ナンブアザミと所属不明のアザミたち−」と題して研究発表され、そのなかで波立海岸産の未知のアザミについて仮称ハッタチアザミと称して発表されました。その折りに僕は門田先生と初対面しお話しを伺いましたが、そこで門田先生は今年の9月下旬に波立海岸で現地調査を行いたいと希望されました。

こういう経過を経て、今年の10月3日に門田先生による波立海岸の現地調査が行われたのです。この結果については、来年2月に専門誌に発表され新種記載の運びとなる予定です。今後の課題としては、何と言っても、自生地の保全につきます。何とか保護されるよう、県の自然保護担当課にはお話しし、施策が実施されるようにお願いいたしました。

ハッタチアザミの花

ハッタチアザミの葉

 

「第30回東北自然保護の集い」

テーマ:温暖化対策と里山の保全を考える

1.         日 時 : 2009年11月28日〜29日(土〜日曜日)

2.         場 所 : 福島県耶麻郡猪苗代町中の沢温泉 中の沢花見屋 0242-64-3621

3.         日 程 :28日(土)  12:00受付

記念講演(8000m峰に見る温暖化):北日本海外登山研究会 会長 保坂 昭憲氏

現地報告 尾瀬における保護対策と課題、風力発電の諸問題、猪苗代湖の水質悪化と改善の取組み

特別報告 日本の天然林を守る活動

各地からの報告(山形・秋田・青森・岩手・宮城)

4.         主 催 : 東北自然保護団体連絡会 ・「第30回東北自然保護の集い」福島大会実行委員会

5.         参加費 : A、集いのみ参加  1,000円 B、集い&懇親会  6,000円 C、宿泊込み   10,000円

6.(連絡先)
@ 高山の原生林を守る会  高橋淳一   024−593−1990(TELFAX) 
         E
メール 
azumatakayama1805@river.ocn.ne.jp
A 博士山ブナ林を守る会  東瀬紘一   0242−54−3643(TELFAX

    Eメール tkouichi@aioros.ocn.ne.jp

B 福島県自然保護協会   星一彰    024−557−8265(TELFAX)